新しい一歩は不安定です。
「なんとかなったな…」
「君何したの?ココ、さっきの所じゃないけど…」
「あぁ、ただの移動魔法ですよ」
俺と亜美は先程の路地とは違う路地にいた。
勿論俺はここを知らない、ランダムに数十メートルワープしたのだ。
(思わず飛んじまったけど、ここどこだよ…とりあえず警察に相談しに行かないといけねぇよな。本当転移初日にこれとか幸先悪すぎだろ…)
俺は思わずため息を吐く。
「ほんと凄いですね魔法って!」
一方の亜美はほほぉと感心している。緊張感のかけらもない。
(何だ?今のがこの人の日常とか、そういう系のことに巻き込まれてるんじゃねぇだろうな…?まぁ本当にそうならボディガードもいないみたいだし、とっくに死んでるか…)
「あはは、そんな事ないですよ…別にあれは誰でも使えますし」
とりあえず、貼り付け笑顔でごまかす。彼女には悪いが今のこの状況、あんまり良くない。
「そうですか?魔法も見たいし、私あなたの事が欲しくなっちゃいましたよぉ」
亜美は口に指を当てる。結構あざとい。
本当に追っ手が来ていることに対して危機感を持っていないのだろうか。
「馬鹿なこと言ってないで、早く警察に報告行きますよ。というかここがどこか分かりますか?俺あんまり詳しくなくて…」
「警察…ですよね。それなら案内しますけど、さっき足挫いちゃったみたいでぇ…おぶってくれると有難いです」
亜美はケンケンすると足を抑える。腫れてはいないようだが、
(やべ、さっき引き寄せた時に挫いたんじゃないだろうな…?)
いかにあざとかろうが、一般女性。流石に置いて行けない。というか道がわからない。
「それならおぶります、道案内頼めますか?」
「任せて頂戴!」
亜美はそういうと胸を張る。二つのメロンが勢いよく揺れた。
俺は跪くと、背中に亜美を乗せた。
ガチャン。
「へ?」
「…うふふ」
背中から必死に笑いを堪えている亜美。
「え?亜美さん、何して…」
「うふふふ、アッハッハマジウケる!」
俺が後ろを向くと、大口を広げ笑う亜美がいた。さっきのあざとさは何処へやら、と同時に手に金属の冷たさを感じる。
(何だこれ…手錠…?)
「何がウケるんですか、さっさとコレ外してください。早くあいつらが来る前に警察に行かないと…」
「え?何言ってんの?折角いい金儲けの道具捕まえたんだから逃すわけないじゃん。警察に行ったりなんてもってのほかよ」
(金儲けの道具?この人何言って…)
「いやぁ、あの時はビビったなぁ…空飛んでるんだもん人間がさぁ」
亜美は嘲笑うかのように俺の背中をポンポンとする。
俺は全てを察した。
「もしかして魔法使いとして売り捌くとか、そんなんじゃ…」
「あれ、流石に頭の回転が早いわね」
ようするに空を飛んでいた俺を見て、金儲けに使えると思い、騙してここまで連れてきたというところだろう。
「もしかして、さっきのも劇だったのか?」
「そうそう、よく分かったわね。結構大変だったのよ?あざと可愛い振りするのも、場所特定するのも…あ、そうそう命懸けで信用度を確認したのも、ね」
口に手を当てウインク。
(まじか、あの銃弾撃ってた奴らもやっぱグルかよ…)
あれが敵なら、こいつを囮にして逃げんのに。
「で、俺をどうするつもりなんだ?こんな小細工で捕まえられたって言えんのかよ。魔法使いだぞ?」
「なにぃ?もしかしてこの手錠ナメちゃってる?」
小馬鹿にした顔をする亜美。
(一々反応がうざったらしいな)
「あぁ。っていうかよく鉄の輪っかで止められると思ったよな…」
「なるほど、そういう考えなら安心ね。その手錠、あなたじゃ絶対に外せないわ」
今度は頬ツンツンしてくる亜美。
「うるせぇ」
(人を馬鹿にするのも良い加減にしろ!)
「飛び散れ"インパクト"」
俺を中心に衝撃波が広がり、背中にひっついていた亜美は、背中から弾き飛ばされた。
ビルのガラスは次々と割れ、破片が飛び散り地面がキラキラと光る。
「ぎゃっ!痛いわね何すんのよっ。外せないって言ってるでしょ!」
吹き飛ばされた亜美は何かを言っている。
一方、手首を見ると、確かに無傷の手錠がハマっていた。
(…マジかよ、傷すらついてねぇ…普通の鉄製じゃねぇのか?)
「もう怒った!あなたで遊ぼうと思っていたけれどもういいわ…仲間を呼んで連れて行ってもらうわ」
(それは色々と面倒くさい…何とかして、それまでに逃げないと…)
「あーあ黙っちゃってぇ、安心して?私が可愛がった挙句にオークションで売り捌いてあ、げ、る」
彼女はそう言いながら、トランシーバーのようなもので仲間に連絡する。
(ヤバいヤバいヤバい)
「押し切ってやる。"グランド・ファイア"」
鈍い音とともに地面、ビルの側面を炎を纏った爆風が駆け抜ける。煙が晴れるとビルも含めた半径数メートルにわたってクレーターが出来ていた。
亜美は路地の入り口まで吹っ飛ばされていた。服は焦げ髪は少し焦げている。
グランド・ファイア、炎の中魔法だ。畑を焼き尽くし、小さい湖なら干上がらせる事ができる、炎系の中では万能な魔法だ。
(くそっ、ちょっとは焦げたけど、まだ壊せてない…)
手錠をかちゃかちゃと鳴らしながら舌打ちをする。
「な、何よ…それ…」
亜美は、完全に繊維を喪失し、路地入口で座りこんでいる。
「何って、炎の魔法だよ。魔法使いだからな。魔法で無理やりにでも壊そうとしてんだよ。"アイシクル・スクエア"」
俺が唱えると、今度は道から壁、雑草に至るまでが一瞬にして氷と化し、路地全体が氷で覆われる。
先程のクレーターも氷で埋まった。
これは周囲に冬を再現するため無理矢理一部を凍り付かせる、氷の中魔法だ。
(これならどうだ…!)
パキィンと手錠が弾ける。
「ふぅ、流石にやりすぎたか?なぁ亜美さんよぉ…?」
俺は氷漬けの路地入り口へ近づく。顔には笑みを浮かべる、勝ち誇った相手を蹴落とすのは気持ちの良いものだ。
「…ひぃっ!?」
亜美はというと、路地の入り口で手をバタバタと動かしていた。凍らされた足を必死に動かそうとしているが、願い叶わず完全に凍りついている。
さっきまでの余裕そうな表情は吹き飛んだようだ。
(これは完全に追い詰めたしもう関わってこなさそうだな…とりあえず俺は一連のことを警察系の人に…)
「そこまでよ!!」
「は?」
と、いきなり元気な声が路地に響くと銃声が鳴り響き、何かが膝をえぐる。
(ぐわっ!?痛ってぇぇぇ!)
「痛っ!?ひ、"ヒール"。…な、何すんだよ!」
血が垂れる膝に手を当て修復しながら路地の入り口へと目をやる。
「私は見習い警官よ!あなたを逮捕します!」
「はぁ!?」
路地の入り口、そこには亜美を庇う形で銃をこっちに構えた銀髪の少女が立っていた。