閑話2:お返し
お返しって、何事においても迷いますよね。
高すぎるものもあれだし、みたいな。
結構大変だなと思います♪
お気軽にお読みください♪
それは、ある日のことだった。
三月も半ばを迎えており、気温も幾分か上昇していた。
『夜になっても過ごしやすい程度には暖かくなる』
天気予報は、そう言っていた。
とはいえ、外はすっかり暗くなる時間を迎えている。
常連さんも帰り、店仕舞いを終えたところで、私は声をかけた。
「今日もお疲れさまでした、店長」
「うむ。ご苦労だった」
昴さんは、ピアノ椅子に足を組んで座っていた。
偉そうな態度はいつものこと。
でも、今日ばかりはその態度に少し苛立ちを覚えていた。
理由は一つ。
今日がとある日だからである。
も、もちろん?
渡し方も悪かったし。
義理のお菓子だから、お返しを期待した訳ではない。
それでも、感想の一つぐらいはあっても良いと思うのだ。
今日になるまで、なんの音沙汰もなし。
となると、本当に食べたのかもわからない。
もしかして……。
不味かったから、なにも言ってこないのかしら?
うーん。
でもちゃんとレシピを確認して作ったし。
味見もしっかりと江波ちゃんと二人でしたから大丈夫なはずなんだけどなぁ。
でも……。
私からなにかアクションを取る、というのもおかしな話だと思う。
結局、もやもやとしたまま、私は帰ることにした。
「それじゃあ、お先に失礼しますね」
なるべく無表情で私は言った。
そこで、昴さんが声を出す。
「あぁ、そうだ。君に渡すものがあったのだったな」
すっかり忘れていた。
とばかりに、頭を掻きながら彼は言う。
「んえ? なにがです?」
その言葉にびっくりする。
まさか内心を読まれたのかな。
「先月、菓子をもらっただろう? そのお返しだ」
なんだ!
気付いていたのか!
顔に全く出ていなかったから、気付いていないものかと思っていた。
「あぁ。ですけどあれは義理ですし。お返しなんていいですよ」
なんて、強がってみるけど。
私が欲しかったのは、お返しよりも感想だったし。
「ふん。仮は作らん主義なんだよ。貰っておけ」
そう言って、昴さんは手提げの紙袋を私に寄越した。
「あ、ありがとうございます」
こういうところは、大人なんだよなぁ。
そう思いつつ、私は受け取り、店を後にした。
……ちょっぴり嬉しかったのは内緒にしておこう。
◇
「なにかいいことあったの?」
おうちへ帰ると、母が私の顔を見て、そう言ってくる。
「ほぇ? なんで?」
「にやにやしてて気持ち悪かったからよ。……あら? それどうしたの?」
母が紙袋を指差して聞いてくる。
「ん? バイト先の店長に貰ったの」
「あらまぁ。そういうこと。なるほどねぇ」
ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべる母。
これは勘違いされている!?
私は慌てて首を横に振った。
「なにを考えてるか知らないけど、そういうんじゃないから!」
「あなたのバイト先の店長ってイケメンの人でしょ? あらあら」
「なんでそんなこと知ってるの!」
「ご近所さんが言ってたのよ」
母のアナログ・ネットワーク、おそるべし。
「とにかく! そんなんじゃないから!」
私はそう言い残して、自室に入っていった。
自室で私は紙袋の中身を取り出した。
一通の手紙と、色とりどりの包装紙に入ったフレーバーティーのセットが入っていた。
「紅茶か。なかなかいいセンスしているかも」
形に残らないものなのが、丁度良く感じた。
私はリビングに行き、苺のフレーバーティーを淹れる。
そして、手紙を読んだ。
『そこそこ旨かった』
ただ一言だけ書かれた簡素な手紙。
「そこそこってなによ、そこそこって……」
私は小声でそう呟いた。
部屋中に、苺の薫りが漂う。
ゆっくりと、ゆっくりと。
私は暖かな紅茶を口に含んだ。
少し甘酸っぱいな。
立ち昇る湯気を見ながら、私の頬は自然と緩むのだった。
――それはある特別な日のこと。
苺の薫りが漂う夜の出来事。
甘酸っぱいお返しで、思わず頬が緩んだ日のことだった。
閑話2fin




