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第3話(Re):店長は雨がお好き?

 今回は難産でした。

 読みやすくを心がけましたが、いかがでしょうか。心配です。

 今回も隙間時間にどうぞ♪



     ◇



「店長の困ったところですか?」

 思い付くことが、たくさんあって困る。

「そうですね……。突然、音楽を奏でること。かな?」

 御新規さんがちょっぴりと笑う。

「……でも。それも良いところかもしれません」

 私は恥ずかしさを押し隠して、そう言った。



     ◇



 さぁー、と。

 外から絶え間なく雨音が聴こえてくる。


 今日は休日だった。

 なのに……。

 喫茶店【ベガ】の店内は、私と(すばる)さんの二人だけ。


 ただでさえ、常連さんしか滅多に来ないお店だ。

 だから、仕方ないのかもしれない。


 今日は流石にお客さん来ないかな……。

 私はカウンターで頬杖をつき、ぼんやりと外を眺めていた。

 

 昴さんは……、というと、もっと酷い。

 お客さんが座るはずの席。

 そこに足を組んで腰掛け、珈琲を優雅に啜っておられた。


 すると……。


 昴さんは、ポケットから煙草の箱を取り出した。

 そして、ライターで火を付け出す。


 ぼっと橙色の炎がきらめき、白い煙が天井へと立ち昇った。


 あれ、昴さんって喫煙者だったんだ。

 白い灰がぽとり、と灰皿へと落ちる。


 その様子を見て、思わず私は口を開く。


「昴さん、煙草は身体に悪いですよ」


 反論されるかな、とも思った。


「ふむ」


 意外なことに、昴さんは相づちを打ち、煙草の火を消した。


 私は困惑して、昴さんに尋ねた。


「意外です。てっきり、また屁理屈でも捏ねて、吸い続けるものかと」


「いやはや。一人でいる時間が長かったものだからな。つい雪菜(ゆきな)君がいることを忘れていた。すまないな」


 どうやら、自分の身体を気遣ったわけではなくて……。

 私がいるから吸うのを止めたらしい。


 何だか逆に、申し訳ない気持ちになる。


「いえ、気にしなくてもいいですよ。父も喫煙者だったんで」


「いや、受動喫煙の方が身体に悪いともいう。手持ち無沙汰なだけだったのだ。構わんよ」


 彼は顎を擦りながら言った。


 その後、しばらく私たちは無言で時間を潰す。

 退屈になってきたので、気晴らしに昴さんへ話しかけた。


「やっぱり暇ですね。常連さんも来ないですし」


「雨の日は仕方あるまい。部屋から眺める分には風情とも感じるがな」


「風情ですか?」


「うむ。雨音に耳を澄ますと、自然を感じられる」


 自然、かぁ。

 ちょっと、よくわからない感覚だ。


「私、雨は嫌いなんですよね。傘を持つと、片手が塞がっちゃいますし」


 私が軽口を言うと、突然昴さんが立ち上がる。

 そのまま、ピアノへ向かった。


 例の病気かなぁー、なんて思いつつ聞いてみる。


「何か弾くんですか?」


「雨音を聴いていたらな。ふと弾きたくなったんだよ」


 答えになってない返事を返す昴さん。

 彼はピアノ椅子に腰掛けた。


 雨音が響き渡る店内。

 その中に……。

 すっ、と。

 昴さんの息をゆっくりと吸う音が混ざった。


 そして、優しげな響きで、音楽が奏でられる。






 零れ落ちるように流れていく旋律。


 それを支えるようにタン、タン、タン、タン、と一定の速度でリズムが刻まれていく。


 それは決して速くなく緩やかだ。

 しかし、音量を変化させながら、永遠と続いていく。


 時折、憂いを帯びるように低く暗い曲調になったかと思うと、また再び柔らかな響きへと戻る。


 その間も、一定の速度で刻み続けられるリズム。


 それはひたすらに水滴が垂れ落ちている音のようだった。

 まるで雨音のように。


 一瞬。

 高音と共に、時が止まった。


 その後、また何事もなかったかのように雨音が奏でられて、静かに音楽は()んだ。






 あぁ。

 昴さんの言いたいこともわかった気がするなぁ。


「こうやって聴くと、確かに雨も風情があるものですね。なんて言う曲なんですか?」


「フレデリック・ショパンの《雨だれの前奏曲》だ。《24の前奏曲》の内の15番目に当たる」


「雨だれ。ぴったりな名前ですね」


「まぁ、雨だれは彼の命名ではない。だがその名で親しまれている。ショパンの名前は知っているだろう?」


「流石に知ってますよ。ピアノの詩人、ですよね」


 この前、テレビで特集をやっていたから覚えている。

 そのことは言わないけど。


「うむ。彼の作品の多くが独奏ピアノ曲だったため、そう呼ばれている」


 軽く何曲か、曲の一部を弾きながら昴さんは言った。


「何曲か聴いたことがあります!」


「そうか。クラシック音痴でも知っているとは驚きだ」


「ひ、ひどい……」


 まぁ、否定はできないけどさ。

 そこまで言わなくてもいいじゃない。


「この曲は、ショパンが病に犯されている際に書かれた作品の一つとされている。書かれた正確な時期は明らかにはなっていないがな」


「病気の時に書いたんですか!?」


「うむ。彼は結核を患っていた。これ以前にも、幾度も喀血している。それが原因で、婚約も破棄されたそうだ」


「可哀想な話ですね。病気に失恋なんて」


「まぁ、暗い話だけではない」


「え?」


「ショパンを語る上で切っても切り離させない女性、ジョルジュ・サンドとの出会いがあった時期でもあるからな」


 救いもあったようで何よりだ。


「でも、なんか男っぽい名前の人ですね、その女性」


「まさに。ジョルジュ・サンドはペンネームだ。当時、女性の社会的地位は低かったからな。わざと男性名にしたのだよ。まぁ、その話は置いておこう」


 昴さんはそう言ってから、もう一度、印象的だったリズムを弾き出した。


「この同音連打が、降り続ける雨音のように聞こえる。まさに雨だれだ。それだけでなく、俺には教会の鐘の音にも思えるんだ」


「教会の鐘、ですか?」


「うむ。向こうの国ではな。同じ音の鐘を鳴らし続けることには、弔いの意味がある。そう思って聴くと、弔いの鐘の響きにも聴こえるんだよ」


「なるほど」


 弔い。

 雨の日に、教会で誰かのために祈っている。


 そんな光景が目に浮かんだ。


「療養中に教会で聴いた雨音を基に作曲した、という説もあるが、そちらは出来すぎだろうな」


 苦笑しながら昴さんは軽く咳払いをして、客席に戻っていった。


 そして、再び珈琲を啜りだす。



 全く。

 音楽かサボりか。そのどちらかしかないんだから。


 私はそんな風に思いつつ、外から漏れ聞こえる雨の奏でる音楽に耳を傾けるのだった。



 ――それは休日の一幕。

 小雨の降る日の出来事。

 私にとって、ちょっとした雨宿りのような時間だった。



第3話fin



 書きたいことがあるほど格闘です。ぜひ一度、聴いてみてください。


 ちなみに、私は雪菜と同じく雨の日が嫌いです。靴下が濡れちゃうときがあるので。

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