干物売り 2
「ただいま~」
「あ、ロット…あ、あのね…」
「ん?」
戻ってきた屋台は、すこし暗い雰囲気だ。
アレッタが泣きそうな顔をしていたので、父さんに聞いてみることにした。
「父さん、どうしたの?」
「ああ、ロットか…実はな、見た目がこんな感じのせいか全く売れなくてな。」
「ああ、なるほどね。」
人間誰しも美味しそうな見た目だったら別だが、初見の食べ物は手が出にくいと思う。
まぁ、中にはそう言った変わった物が好きな人も居るのは確かだけどね。
じゃなければ、ナマコやらホヤとかウニとか食べようとは思わないハズだ。
さてと、だったらココからが俺のターンだ。
「まあ、見ててよ。」
パピーに商売と言う物を見せてやろう。
「いらっしゃい、いらっしゃい、見てらっしゃい、聞いてらっしゃい、寄ってらっしゃい、本日初売りの干物だよ~!
生の魚じゃ味わえないこの旨さ、日持ちもするし、お買い得だよ~!
今なら何と、お試しで試食も出来ちゃう! 是非お試しあれ!」
俺の元気な掛け声を聞いて興味を持った客がやってきた。
「変わった魚だから遠慮してたんだが、旨いのかい?」
「もちろんです! 自信を持ってお勧めします。
ただ、見た目がこんなのですからね、良く分りますよ。うんうん。」
「そうなんだよね。」
「と言う訳で、こちらに試食を用意してみました。
焼きたてですから美味しいですよ? 是非食べてみて気に入ったら買って頂けると嬉しいです♪」
「良いのかい?」
「はい!」
俺は魚の身を崩して、客の手に乗せてあげた。
それをパクリと食べた客が…
「旨い! 前に食べた魚は生臭かったが、これは旨いな。幾らだ?」
「えっと、5日持つのが鉄貨3枚、10日持つのが鉄貨4枚となっております。」
「え? 10日持つものも有るのかい?」
「これはこれは大変申し訳有りませんでした。こちらがその10日持つ物になります。」
同じ様に身を崩して、男性に渡した。
「先ほどのに比べると少し塩辛いが、問題無いな。
…いや、酒のつまみにしたら丁度良いか? それに10日も持つと言うのも良いな…」
「如何いたしましょうか?」
「5日のを2枚、10日のを3枚貰えるかな?」
「ありがとうございます。大鉄貨1枚と鉄貨8枚になります。
先ほど言い忘れておりましたが、10日の方は、焼く前に一度水で洗ってから焼いて下さい。
そうしないと塩辛いので食べにくいですから。」
「わかったよ、はい、お金。」
「確かに、是非またのご利用をお待ちしております。」
客が去った後に、次の客がやってきた。
「今見てたんだけど、おいらも試食と言うのを頼めるかい?」
「はい、どうぞ。」
俺は切り身を渡し、男性が食べてみる。
「良いね~、もう片方も良いかな?」
「はい、どうぞ。」
同じ様に渡して食べている。
「うん、こっちも美味しいな。2枚ずつ貰えるかな?」
「ありがとうございます。大鉄貨1枚と、鉄貨4枚です。」
「はい、これね。」
「ありがとうございます。先ほど聞いていたなら知ってるかもしれませんが、10日の方は一度水洗いして下さいね。」
「わかったよ~」
男性が去ると、すかさず次の人が…
「次は私ね、両方食べさせて~」
「はい、どうぞ。」
・・・・
「まいどありがとうございました~」
「ロット、もうお魚無いよ?」
「そっか、じゃあ完売~!」
あれからは客がひっきりなしに来た御蔭で、干物はあっという間に売り切れてしまった。
そこに父さんががやってきた。
「ロットが何で試食に拘ったのか良く分ったよ。」
「でしょ?」
「ああ、確かに食べて見なければ味なんて分からないし、見た目が違うと手が出にくいからな。」
「ねぇ、ロット、今日の売り上げってどうなったの?」
「えっとね、銅貨1枚と、大鉄貨6枚に鉄貨5枚だね。」
「すご~い! のかな? お父さんどうなの?」
「そうだね、私が売りに行った時の10倍は超えてるね。」
「え? そんなに?」
「そうだよ、そちらも同じ感じじゃないですか?」
「ええ、そうですね、似た様な感じです。」
「ロット凄いね。」
「うん、これからはみんなで頑張ればきっと生活も楽になると思うし、頑張ろうね。」
「うん♪」
こうして干物の販売は成功で終わったのだった。
当初、アメ横の売り方を真似ようかと思ったのは内緒。




