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記憶を糧にやり直せたなら  作者: ひまガネTYPEMAN
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3話 過去の事件現場と謎の二人組の男

「アリガトゴザイマシター」


 片言の挨拶に見送られながら、彰は繁華街にあるチェーン店を後にした。


「まあ、結局チェーン店で済ませるんですけどね……。地方の特産品を扱うような店はなんだか入りにくいし。高そうだし」


 彰は一度ホテルにチェックインし、一人夕食を済ませていた。

 せっかく知らない土地に来たのだからと、初めは携帯で美味しそうな店を調べたりもしたのだが、やがて面倒になり、ならばと街を歩き周り良さそうな店を探したりしたのだが、これまたすぐに知らない土地だからとアウェー感を覚え、結局なじみのあるチェーン店に入ってしまったという顛末であった。


「帰りにコンビニでカップ麺でも買おうかな……。あとアイスとか」


 帳尻合わせとばかりにそう心に決めると、しばらく街中を散策した。

 夜といえども未だ蒸し暑く、歩いているだけで汗が滲んでくる。だが、そんなことはお構いなしに彰はこまめに地図を確認しながら人混みの中をかき分け進んだ。


「そりゃあ猟奇的な殺人事件が続いたところで出歩く人の数は変わりっこないよなぁ……」


 自分には関係のないこと。人はついそう言って、問題について考える時間を割くのを止めてしまう。それに、いくら事件が起こったからといって、人には仕事があり、生活がある。急に部屋に閉じこもるなんてことできるわけがない。せいぜい人通りの少ないところは通らないようにする程度の対策を取るくらいであろう。だから、こんな人の多い繁華街から人が減るなんてことは、先ずありえない。

 たとえ――


「ええっと……あった。ここの立体駐車場の中だっけか? 最初の被害者が出たのは」


――それが身近な、自分にも起こりうる問題であったとしても。


「結構繁華街から近いな……歩いて数分じゃないか」


 それは三階建ての何の変哲もない、古ぼけた立体駐車場であった。繁華街から少し離れた場所、周囲に街灯がポツポツとみられる程度の、人通りの少ない薄暗いエリアにそれは建っていた。

 第一の被害者はここの三階、歩行者用の階段を登り切ったところで、頭部を失った死体となって発見されたとのことであった。

 彰はさっそく立体駐車場の中へと入り、死体の発見された場所へと向かった。

 事件があったと言ってもそれは数か月前の事である。今ではそんなことなど無かったかのように、この古ぼけた駐車場には多くの車が停められている。

当然ながら階段を上った先、かつて死体が横たわっていた場所でさえ血痕などは見られず、ましてや事件の手がかりになりそうな痕跡など残ってはいなかった。


「まあ、襲撃時に壁やドアを破壊するような粗っぽい怪物じゃないってくらいか分かるのは……。分かってはいたが、どうやって探したらいいものか……」


 彰は軽くその場に手を合わせると、その場を後にした。

 その後も近場にもう一件死体の見つかった場所があると聞いていた彰は行こうか行くまいか思案しながら繁華街を歩いていた。

 どうせ行ったところで何も分かるはずがないという思いと、この暑さにはやくホテルでシャワーを浴びてゆっくりしたいという思いが強かったためである。

 それにしても、人通りの少ない場所での犯行とはいえ、人の目や監視カメラくらいありそうなものである。化け物じみた外見のものがこの街中をうろついているとしたら確実に人の目についていると思われる。


「外見は案外……人の形をしてんのかもな……若しくは透明とか」


 そう考えを巡らせていたとき、彰は不意に後ろから声をかけられた。


「あぁ、ちょっといいかな?」


 振り向くとそこには二人組の男が立っていた。

 一方の──彰に声をかけてきた男は切れ長の目をした白髪混じりの男であった。その鋭い目付きとは対照的にひどく気だるげな表情であり、そして面倒臭そうな話しぶりであった。


「あぁ、ちょっと聞きたいんだけどね……こんな女の子──見なかった?」


 男の取り出した写真を彰は面倒臭そうに覗き込んだ。周囲が暗くよく見えない。だが、その事がこの時の彰にとって幸運なこととなった。


──あれ……これって


 薄暗い街灯の中目を凝らし、次第に浮かび上がってくるその写真に彰は思わず息を飲んだ。

 そこに写る人物。それはフードを被っており、また周囲が薄暗いこともありはっきりと顔を見ることは出来なかったが、彰はその人物が直ぐに玲であると察した。その何よりの証拠として、その写真に写る少女の身体は、薄ぼんやりと青い光を纏っていることが見てとれた。

 彰は直ぐに目の前の男たちが警戒すべき相手であると直感した。幸いなことに、写真を見たときの表情を男たちには悟られていないことは、依然変わらぬ彼らの態度からよく分かった。


「いやあ、暗くてよく見えないんですけど……家出少女っすか? もしかしてあんたら警察?」


 彰は平然を装い、あえて大人にとって面倒臭いであろう若者を装い答えた。


「あぁ……そうだな。俺達は刑事なんだよ。ほら、こうして二人組で、警察手帳も持っている。だから刑事さ」


 先程の切れ長の目をした男は懐から警察手帳のようなものを取り出し、ふらふらと揺らしながらそれを見せつけた。

 その男の後ろ──先程から一言も話さず後ろで控えている、大柄で筋肉質の男もまた同様に手帳を取り出した。


「刑事っすか。ええっと、刑事の……雲村光治さんと、そちらのデカい人が郷久保大悟さんと」

「ああ、そうさ――まあ、この女について知らねえってんならいいさ。ご協力に感謝します」


 男たちは胸元に警察手帳を仕舞いながら言った。


「この女はな、身体が青く光るんだよ。可笑しいだろ? 君も関係を持たないように気をつけるんだぞ。俺たちの追ってる異常者だ」


 そう言うと男たちは去っていった。

 その場に取り残された彰は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 あの男たちが刑事だとは到底思えなかった。すると、怜が何やら怪しい人物たちに追われていることになる。それに、あの男の言っていたことが気にかかった。


――俺たちの追っている『異常者』


 常識から考えれば、確かに彰達の能力を発動した際に放出される光は、傍から見れば異常である。だが、彼の発した言葉にはそれ以上の意味を含んでいる気がしてならなかった。

 ともかく、現段階では怜にこのことを伝えるほか無かったので、怜にメールを送信した後、彰はそのまま大人しくホテルへと戻っていった。


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