表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を糧にやり直せたなら  作者: ひまガネTYPEMAN
13/23

13話 教室での戦闘

「な、なんだぁ……?」


 校門で煙草をふかしていた教員は慌てふためいていた。

 校舎の方から聞こえてきた悲鳴が次第に大きくなる。やがて悲鳴と共にたくさんの生徒達が校舎から雪崩出てきた。

 全力で逃げる者もいれば、状況が理解できぬままパニックになり「何が起こったんだよ!」と叫ぶ生徒、悠長な様子で取りあえず外に出てきたと笑うものなどさまざまであった。


「もういいだろう。突入だ」


 天笠を先頭に彰、明葉が校門を乗り越え走り出した。混乱する生徒や教員は彼らのことなど視界に入らない。人混みの中を縫い三人は素早く駆け抜ける。

 校舎の中へと入ると三人は大勢の生徒が逃げてくる方へと走り出す。中には怪我した生徒もいるようで廊下にはポツポツと血の痕が見られた。

 どこからか悲鳴がたくさん聞こえてくる。その悲鳴を頼りに事の起きている現場を探して行く。

 やがてすぐに三人は校舎の中につくられた中庭にでた。快晴の青空の元、緑に生き生きと茂った草花が日に照らされている。その校舎一階のベランダ。コンクリートの地面には上階から転落したと思われる生徒が赤黒い血を流して倒れている。

 周囲にはガラス片が散らばっており、校舎の五階からは尚も断末魔と思しき声が響いている。


「逃げるために飛び降りたのか」


 天笠は五階の教室見上げる。

 すると教室の一つの窓ガラスが激しく割れた。青空の下を飛散する輝くガラス片、そしてそれを染める鮮血。


――ああ、綺麗だな


 ふいに天笠はそのような感想が浮かんだ。


「何してんの! 早く行くよ!」


 明葉が叫んだ。我に返った天笠は「……ああ」と階段の方へと走りだす。

 その時である。


「おらあああああああ!」


 気合。そして何かの破壊される音ととともに教室の窓からは赤い光が噴き出した。


――桜庭か


 既に桜庭は別の場所から突入を開始しており教室にたどり着いているのだと分かった。



 廊下に面する壁をアンプで横なぎにして粉砕し、桜庭は教室の中を見渡した。

 辺りは血痕、肉片、死骸。そして隅で放心している数人の生徒達。まさに地獄絵図である。

 その教室の中には天井まで届きそうな程に巨大な、全身真っ白な皮膚に大量の鮮血を纏った人型の異形の姿があった。異形の口だけの顔が桜庭の方へと向く。その口元は笑みを浮かべている。

 桜庭は不快そうな顔をした。


「何を笑ってるんだ? 好き勝手に殺しまくりやがって。だが今度はテメエの番だ。もう逃がしはしねえ!」


 異形はその丸太のような太い腕を素早く伸ばし桜庭を掴みにかかる。

 だが桜庭は動じない。その掌が触れるかと思われた瞬間、身体に赤い光を纏いその腕を弾き飛ばした。周囲に弾けた掌の肉片が飛び散る。

 異形は腕を収縮させ引っ込める。と、同時に体はみるみる小さくなっていき元の人間程度の大きさまで小さくなった。

 桜庭はアンプを構えると異形めがけ走り出す。一気に間合いを詰め異形の頭部めがけてアンプをふるう。異形はそのアンプを素早い動きで躱すと、近くにあった机の脚を掴み、身体の回転にのせて桜庭に叩きこむ。

 赤い光が走り、机は桜庭に触れた箇所から粉々に砕けていく。脚だけとなった机が空を切っただけとなった。

 すぐさま桜庭は躱されたアンプを今度は横なぎに振るう。しかし異形は身体を軟体動物のように大きくしならせると、身体を逸らせてそれを躱す。そのまま異形は大きく跳躍すると教室の前方へと着地し距離をとった。

 桜庭は舌打ちをするとアンプの先端を向けて吐き捨てるように言う。


「人型の癖にありえねえ動きで避けやがって。だが時間の問題だな。元人間だか知らないが黙って皆のために殺されろ」


 その言葉に異形は口元を歪ませニチャりと笑いを浮かべて言った。


「皆のため? 皆はどうして殺される? 皆は俺を卑しめたから殺された。皆はお前が俺を殺し損ねたから死んでいった。ザマぁないなあ」


 深川の声色を使った言葉に桜庭は頭に血が上った。

 瞬時に間合いを詰めてアンプで突きを放つ。間の机や椅子を全て消滅させての移動、そして攻撃である。

 だが攻撃はあまりに大ぶりであった。異形は軽々と躱すと桜庭を飛び越え背後に回る。


「くっそ!」


 すぐさま振り返る。と同時に桜庭は巨大な飛来物を視認した。

 桜庭は直ぐに赤い光を身にまとう。その巨大な物体は桜庭の光に触れると両断され、背後の黒板へとぶち当たる。

 バシャッ! と飛び散った液体が首元にかかった。生暖かく血の匂いがする。

 桜庭は驚き振り返った。黒板からずるりと床に落ちたのは胴を分断された生徒の死体であった。


「なっ……」


 桜庭は動揺した。投げつけられていたのは生徒の身体だった。そして身を守るために使用した力で生徒の身体は真っ二つとなってしまっていた。

 誰かを殺してしまった。一体誰を? 慌てて確認するとその身体には首から上が無かった。

 投げつけられていたのは深川に食われた生徒の死体であった。桜庭は思わず安堵してしまう。

 その時、桜庭の後ろから笑い声がした。


「ンフフフッ。良かったなあ。それが死体で」


 見ると異形は先ほどから放心していた女生徒の首根っこを掴んでいた。次はこの生きた生徒を投げるという意思表示である。


「力を使えばこの女も消滅するんだろう? 俺はどんどんこいつらを投げつけるぞ。だからお前は黙って皆のために殺されろ」

「て、てめえ……」

「さあ、皆のためにサンドバッグになって死んでくれ。お前らの大好きな『皆のため』だ」


 異形は女生徒を投げる動作を開始する。その腕や脚を肥大化させていく。全力で投げるつもりなのだろう。人間程の質量を凄まじい速度で受けたならば両者共に挽肉のように潰れることは必至である。

 太く強靭な異形の脚が地面を蹴る。伝達された力が異形の腰を、そして腕を駆動させていく。

そして異形は女生徒を、今まさに投げつける。


「く、くっそおおお!」


 桜庭は赤い光を纏った。

 その時、赤い光が異形の腕を貫いた。腕は爆散し白い肉が飛び散る。そして女生徒は宙を飛ぶことなくそのまま床へと転がった。


「いやぁ。階段ダッシュは……流石にきっついな」


 光の飛んできた先。廊下側を見ると天笠が肩で息をしながらアンプの鋼線を巻き取っていた。その後ろから彰、そして明葉が教室へと駆けこむと、僅かに生き残った生徒たちの前に立ち異形と対峙した。


「酷い有様っすね。地獄って感じで」

「遅れちゃってごめんね、春樹」


 四対一。形勢は圧倒的に桜庭たちの有利となった。


「お前、深川だな?」


 天笠が異形に問いかける。


「生まれ変わってどうだ? 色々とやってみると言っていたが?」


 天笠は周囲を見渡し、そして深川へと視線を戻す。辺りは赤黒い肉片、鮮血、そして汚物で塗れた教室。涙や血液でドロドロになった生徒が隅で震える中、返り血を浴びた白い異形の深川が立っている。


「色々とやった結果がこれですよ。奴らのデマカセを知った。そのデマカセというしょうもないもので俺は自分自身を責める羽目になっていた。でも俺はこれから皆の大好きな努力ってやつで良い人生を手に入れてみせますよ」

「……そうかい」


 天笠はただ相槌を打った。

 その会話を聞いた桜庭は吐き捨てるように言う。


「何が努力だこのくそったれ!」


 その言葉に異形は振り返る。異形に対し桜庭は続ける。


「自分の不出来を棚に上げて甘えてんじゃねえ! てめえは他人の積み上げてきた人生を奪うだけだろう!」

「そうだな。皆はこれから俺に食われていく。そういう人生を送ってしまったんだ。己の不幸を恨むがいいさ」


 異形はケラケラと笑った。その声は深川のものではなく、様々な人物の声が混ざったような不思議な声であった。


「この害悪が! さっさと殺処分されるべき人間だったなぁ!」

「ならば皆は俺を殺せばいい。なぜそうしない? でないと俺は皆を殺していくのに。――素晴らしい人生を送っている人々はその素晴らしい能力で頑張って生き残ってみせるがいいさ」


 異形の笑いが響き渡る。

 が、突如異形は動きをピタリと止めて一人ニヤリと笑みを浮かべた。


「やはり――やはりコイツを食って正解だった。実に面白い人生だ。じゃあな負け犬君」


 そして異形は素早く跳躍したかと思うと天井を蹴り、窓ガラスを突き破って外へと飛び出していった。


「おい! 待てやおらああああ!」


 桜庭はアンプを放って追撃を試みた。だが散乱するガラス窓をいくつか消滅させただけで、それが異形を捉えることは出来なかった。

 桜庭は急いで窓枠へと駆け寄り外を見る。

 教室の外。そこは青空が広がっていた。下の中庭では強い日差しに照らされた草花がまるで平穏だと言わんばかりに風に揺られている。

 既に周囲に異形の姿は見当たらない。


「な……?」


 吹き抜ける風が教室のカーテンを揺らし、思考の停止した桜庭の頬を撫でた。


「――逃げてんじゃねえぞ糞がアアアアア!」


 怒りと悔しさを吐き出すように桜庭は咆哮した。

 逃げられた。その事実を皆が認識した。蒸し暑い気温のせいなのか、先ほどまでよりも血の臭いが強く感じられてくる。

 彰は改めて教室を見渡してみた。惨劇となった教室で肉塊となった生徒は転がり、生き残った生徒は未だ震えながら放心している。

 彼らに何と声をかけてやれば良いのか、どのように救いの手を差し伸べてやればいいのか分からないまま彰はただ立ち尽くすしかなかった。


「行くぞ。人目が多くなる前にな」


 天笠が声を上げた。気が付けば遠方からは警察車両の鳴らすサイレンの音が近づいてきているようであった。

 彰達四人は生徒たちをそのままにしてその教室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ