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記憶を糧にやり直せたなら  作者: ひまガネTYPEMAN
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12話 教室の惨劇

「さっさと通せっていってんだよ!」


 高校の校門前では桜庭が教員の一人と言い合いしているところであった。

 その傍らでは天笠と彰、そして明葉が木陰で暑さにうなだれていた。


「あたし、早くクーラーの効いた教室に入りたいんだけどなあ……。怜ちゃんはどこかへ行っちゃうし、私も休んでていいかな」

「かき氷食ってんだから良いじゃないですか明葉さんは。怜さんは深川って学生の家に行くって言ってましたよ」


 桜庭は門を叩きながらその門の向こう、先ほどまで煙草を吸っていた体育教師と思しき男性に向かって叫ぶ。


「早く門を開けろ! 取り返しのつかないことになるぞ!」

「あのねぇ、さっきから言ってるだろう? 許可の無い人は入れられないんだよ。そんなこと常識だと思うがね」

「そんなこと――」

「君らみたいなよく分からない人らね、先生相手にしてらんないんだよ! さっさと余所言って遊んできなよ! じゃないと警察を呼ぶからな!」


 そう言うと門の向こうにいた教員は背を向けると、再び煙草を吸い始めた。


「くっそ! サボって煙草吸ってすだけの癖にあのゴリラが」


 桜庭は悪態をつきながら門を蹴った。


「まあ、そんなもんだろうよ。この学校に傍観者バイスタンダーはいねえんだから。俺らは頭のおかしい部外者さ」


 門に寄りかかり、煙草に火を点けた天笠が言った。

 その様子が勘に触るのだろう。桜庭は睨みを聞かせながら言った。


「テメエ。ちょっと仕事っつうこと分かってます? 俺らがその餓鬼を始末しなきゃ善良な他の生徒が被害を受けるんすよ?」


 その台詞を横で聞いていた彰は明葉の方を見た。明葉はかき氷をストローでシャクシャクとしながら「私は休憩時間だから」と笑った。


「善良かは知らねえがそうなるだろうなあ。金を払って『助けてくれ』って依頼が舞い込まねえかなあ俺らに」


 天笠は空に向けて煙を吐き出す。

「テメエさっきから……。俺らの仕事はなぁ――」

「怪物を殺すことだろう。それが仕事だ。助けて欲しけりゃ金を払うなり懇願するなり、そういった行動を起こせばいい」

「捻くれて屁理屈言ってんじゃねえぞ! 餓鬼かお前は!」

「まあぁクレームも良いし、俺に代わって仕事をしても良いが、とにかく今は学校に入れないんだ。気長に待つしかないだろう」


 そう言うと天笠は座り込み再び煙草を吸った。


「人殺しを庇いやがって、クソッタレが。無駄な私情でも挟んでんのかよ!」


 桜庭は悪態をつきながら学校のフェンスに沿って歩いて行ってしまった。


「これから大仕事かもしれないのに喧嘩したままで良いんですか?」


 見かねた彰が天笠に問いかけた。


「良くはねえな。あぁ、これが原因で死人が出るかもしれない」

「ヤバイじゃないですか。まあ、動けないのは事実なんでどうしようもないかもしれませんが」


 彰は困ったように笑う。それを見て天笠は頭をかきながら煙草の火を地面で消すと、のっそりと立ち上がった。天笠は大きく伸びをするとわざとらしく怠そうな声でぼやいた。


「しっかしなあ。誰にも気にかけてもらえずただ屍となっていくやつがいる一方で、自らが殺されるからといって『気にかけてくれ』っつって泣き叫ぶやつがいるなんて変な話だ」



「頑張り? 比較? さっきから一体何を――うぐぅ」


 板野が困惑していると南沢は板野の胸ぐらをつかんだ。そのまま板野の身体は片腕で持ち上げられ、喉が締り苦しそうにうめき声を上げる。

 周囲の生徒たちは昨日見たような光景に戸惑っていた。何故南沢がこんな怪力をもっているのか、自分たちはどうすればいいのか。

 結局、誰一人として逃げ出そうとする者はなくただ恐怖に支配され、力なく机で俯いているだけであった。


「忘れたとは言わせない。お前は俺の苦しみを、ただの努力不足だと切り捨て罵倒し続けたんだ。脳みそがどうにかなりそうだった。脳みそが委縮していくような痛みを常に抱えていた。力も湧き上がらない。そして俺はそれが当たり前の人生だと思っていた」


 深川は泡を吹き気絶しそうな板野を生徒たち目がけて放り投げた。

 悲鳴が湧き上がる。机や椅子のぶつかり合う音が鳴り響く。


「だが俺は生まれ変わった。こんなにもすっきりとした脳みそがあるんだと驚いた。活力は湧いてくるし、力も振るい放題だ」


 南沢の奇妙な様子にさすがの生徒達も危険を感じ教室の後ろへと逃げる者もいた。

 そんな生徒たちを見ながら南沢は続ける。


「お前も俺を努力不足だと罵った。お前は俺をいつも笑いものにした。お前は自分が努力をしているとひけらかし、お前は恵まれない環境に居ながらも頑張っていると嘲っていた。じゃあ比較させてくれ。本当にお前らの努力の賜物か、ただ環境に恵まれていただけなのか。少なくともコイツは何も努力などしていなかった! ただ猿のように生きていただけだった!」


 そう言って南沢は自身を指さした。


「ゲホッ……ゲホッ――もしかして、はぁ。お前は……深川……か?」


 気を取り戻した板野が涙を浮かべながら力なく問うた。

 その問いに、南沢は大きく口を開けて笑った。


「ハッハハハハ。そうだ今更気が付いたな! この貧弱教師が!」


 南沢は大きく開けた口に両手をあてがい、それを上下に広げた。頬の肉が裂け、鮮血が噴き出す。そのまま首までパックリと割れて大きく開かれた肉の隙間からは、深川の顔がのぞいていた。

 あまりの光景に、生徒たちは言葉を失った。


「まずはお前からだ。お前の人生を味わうぞ!」


 深川の腕が伸び、板野の後頭部を鷲掴みにする。


「うわぁっぁあ……」


 弱々しい悲鳴をあげて板野はもがいた。だが、深川の腕はびくともしない。

 深川は腕を収縮させると、板野の頭部を口元へと引き寄せた。

 すると深川の口は大きく広がり、板野の頭部を軽々飲み込む程にまで変形していった。

そして板野の頭部を口の中に入れる。


「んンん……」


 板野のくぐもった声が聞こえる。

 次の瞬間、深川はそれを一気に噛み砕いた。

「ギィ!」っという断末魔が聞こえた気がした。

 バキバキと骨の砕ける音と咀嚼音。飛び散る鮮血に痙攣する板野の胴体。


「んー」


 深川は巨大化した口をモグモグと動かすと、やがてそれらを飲み込み身震いした。


「――なんだ。こいつも恵まれた環境にいただけの口じゃないか」


 一斉に悲鳴が轟いた。男も女も皆、訳も分からずただ恐怖にパニックに陥った。皆は扉へと押し寄せ「早く開けろ!」と恐怖に震える怒号が飛び交う。

 だが深川は見逃さなかった。

 深川はその怪力で近くの教卓や机、椅子を次から次へと投げつける。

 凄まじい速度のそれらは扉周辺に集まる生徒たちの骨を砕き、床に血だまりを作っていく。机や倒れた生徒たちで扉の前にバリケードが生まれる。


「うわあああああ」

「どけよ! 邪魔なんだよ!」


 パニックのあまり気絶する生徒、過呼吸になり涙を流しながら座り込む生徒、教室の反対側の隅に集まり人を前に押しのけ身を隠そうとする生徒など様々な光景があった。

 深川は嬉しそうにそれを見て笑う。


「ハハハハハッ。散々馬鹿にしてきたくせに滑稽だなあ。頑張って助かろうとしろよ」


 大口を開け笑う深川。突如顔の表面にヒビのような亀裂が入った。痛がる様子はなく、ヒビはやがて身体中へと伝播していく。深川が自身の掌で顔を撫で付けると、ヒビの部分から皮膚はボロボロと剥がていく。やがてそこからは真っ白い裸をした口のみを有した異形の顔が現れた。

それはまさしく神社で深川を食らった異形そのものの姿であった。


「次はお前かなあ。サッカーですごく頑張ったんだって俺に言ってたよなあ」


 再び腕を伸ばすと、肥大化させた腕で男子生徒の胴体を掴む。


「うわああああ! やめてくれ! 死にたぐないいいい!」


 引き寄せられていく生徒は泣き叫びながらもがく。

だが抵抗虚しく、生徒は白い顔の異形と化した深川に頭部を食いちぎられた。

 深川はその白い肌に赤い血を滴らせながら嬉しそうに言う。


「サッカークラブに入れてもらって、送り迎えしてもらって、帰ったら風呂と飯が準備されて。なんていい環境だ! 何がテメエの努力だクソッタレめ!」


 食い残った身体を放り捨てる。教室に血しぶきが舞い、更に部屋は赤く染め上げられていく。

その後も深川は次から次へと獲物を捉え吟味していった。不思議なことに深川の身体は生徒たちを喰らうに連れて一回り、二回りとどんどんと肥大化していった。

 轟く悲鳴。叫び声を聞きつけて廊下の前には教師や生徒がやってくる。だが、誰一人として助けようとはしない。皆は悲鳴を上げながら校舎の外へと駈け出していく。

 教室の中には窓ガラスや床に飛び散った赤黒い血液と隅で震える生徒達、頭部を失った大勢の生徒の死骸、そして次の生徒を捕まえようと手を伸ばす白く巨大な異形の姿があった。


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