11話 怪物の正体
「それで、何人が殺された?」
天笠が切り出した。
翌日の朝。いつもの神社に集まった彰達五人は、傍観者の警官から得た情報を共有していた。
「死体を数えれば十人だったとのことです。死体は皆、頭部のみが喰われていたそうです」
怜が淡々と情報を伝える。
「皆、地元の不良仲間とのことです。警官の間でもよく知られていたグループだそうで」
怜は被害者の顔写真を印刷した紙を皆に配った。
「若い子ばっかりだねー。高校も全員が一緒ってわけでもないんだ」
「とはいえわざわざ集まってたってことは何か招集でもかかったんだろう? リーダー格はこいつか?」
桜庭は写真の中からピンときた学生に指さし怜に問うた。
「ああ、その方です」
「じゃあコイツの周囲で何かトラブルが無かったかを聞いて回れば――」
「――そのリーダー格。それに他数人の学生だが、最近も同級生とトラブルを起こしてるぜ」
天笠の発言に皆の視線が集まった。その発言に何か思うところがあったのか桜庭は強い口調で問い正そうとする。
「なんで知ってるんだ? 会ったことでもあるのか?」
「まあな。先日、近くの土手でこいつらが同級生をぶん殴ってるところに出くわしたもんでな。追い払ってやったから覚えている」
「その同級生を助けてたってわけだ。で、その同級生はどうした?」
「先日まで普通に学生をしていたはずだぜ。ただ、最後に会った時には様子が変だったがな」
「変? それはどんなだ?」
「『生まれ変わったんだ』っつってたな。確かに以前に会った時には大人しい奴だったんだが、その時は妙に明るい印象だったな」
「へぇ、つまり違和感に気付いておきながら放っておいたってことか」
嘲笑交じりに桜庭は言い放った。ピリッとした空気が辺りを流れる。
「何が言いたい?」
「お前は情報を得ていながら共有しなかったってことだ。結果、これだけの学生が命を落とした」
「まだそいつが犯人だって証拠がないだろう」
天笠は落ち着いた様子で答える。その態度が気に食わないのか桜庭は苛立ち鼻息を荒くした。
傍から見ている彰は「止めたほうがいいですかね?」と明葉に聞いたが、いつものことだからと明葉は呆れたようにため息をつき静観を決めていた。
「お前もそいつが犯人だとそう感づいているはずだ。なら証拠を掴んでさっさとぶち殺してやるんだよ。それが俺たちの仕事だ」
「ああそうかい。じゃあ直ぐにでもそいつの学校に急ごうか。学生を殺して俺たちは金を稼がないとなあ」
「テメェ──」
「中央高校だ。ここから近い。さっさと行くんだろう?」
「……チッ!」
桜庭はまだ何か言いたげであったが、不快そうに先だって高校へと歩き始めた。
「いつものことって、明葉さんもいつもあんな感じで言い合ってるんですか?」
彰は小声で聞いた。
「いいやー。私とじゃなくって、男に対してああやって当たりが強くなったりするみたい。力の上下関係で上に立ちたいんじゃない? 女の子には甘いから都合が良かったりするんだけどね」
「そんなもんですか……」
「そんなもんです。人の上に立ちたい。女の子にモテたい。そんな願望に分かりやすくアグレッシブでさーアイツは。――ところで、被害者の子たちの名前もリストになってるの? 学校に行く前に知っておかなきゃ」
「怜さんが配った二枚目にありますよ」
「あらら。ええっと――さっきのボスっぽい子がっと……南沢大樹君ってんだね」
○
チャイムの少し後、教室に担任の板野が入ってきた。何やら不満げな顔をしており、首をわざとらしく捻っている。
理由を聞いてほしいのだ。そして聞かなければ勝手に不機嫌になるということを生徒たちは知っていた。
仕方なく教卓に近い生徒が「何かあったんですか……?」とおそるおそる聞いた。
「いやぁ。何があったのかは俺が聞きたいくらいなんだよ。朝から校長や教頭が慌ただしくてな。何があったのかと聞いても『今はちょっと……』だの『今は忙しいから後で話す』だと。おかげでここに来るまでに無駄な時間くっちまったよ」
「そう……なんですか」
生徒は愛想笑いを返した。
「そうなんだよ。いいからさっさと出席をとるぞっと」
そういうと板野は出席名簿を開いた。
「ええっと、そういえば深川は謹慎くらってるんだっけな!」
板野は大げさにそう言い放った。それを聞きクラスからも笑いが起こった。
板野は満足そうに続ける。
「ハハハッ。まあ、もう来なくていいよアイツは。色々と面倒臭いからな。お前らもそう思うよなぁ? ほんと馬鹿どもの喧嘩様々だよ」
その発言に空気が凍った。
板野はその変化に気が付いたが理解できない様子であった。
「なんだお前ら? 一体どうし――」
視線を上げると椅子が見えた。
ガシャーンッ! と突如響いた大きな音に板野は身体をすくませる。板野の顔の真横。すれすれのところを椅子が通過し黒板に激突していた。凄まじいスピードだったのか椅子の脚は変形し、黒板は窪みができている。
「うわああぁ。なんだ!?」
「情けない声上げるなよ、先生」
声のした方に視線をやると、南沢がヘラヘラ笑いながら立ち上がっていた。椅子がないことから椅子を投げたのが南沢だと分かった。
「み、南沢……」
板野の表情から怒りは消え、恐怖の色が強まった。喧嘩について触れたことでその喧嘩に敗けた南沢を激怒させてしまったのだと思った。
「危ないだろぅ。怪我するじゃないか……」
精一杯の抗議のつもりだろうが完全に弱腰の発言である。声は震えて視線も泳いでいる。
「随分態度が貧弱じゃねえか糞教師」
南沢は笑いながら教室の後ろ、扉の方へと歩いていく。そして扉に鍵をかけたかと思うと錠前部分を素手で破壊した。
「な、何をしているんだ? 早く座りなさい……」
「いつもの横柄な態度はどうしたよ。見下すような目で説教して気持ち良くなるのがお前の趣味じゃないのか? らしくないぞ?」
「な、何を言っているんだ……?」
「お前はいつも努力の必要性を説いた。俺を努力不足だと罵り押さえつけてきた。だがどうだ? お前はただ生まれ持った環境に恵まれていただけじゃないのか? 少なくとも俺はそう思うんだ。人は皆平等じゃない。スタートがマイナスな奴もいる」
南沢は教室前方にある扉へと歩いていくと、先ほどと同様に鍵をかけた状態で錠前部分を破壊した。
夏場の教室。クーラーをつけた教室は窓も閉まっており、扉は二つとも鍵をかけられた状態で破壊された。直ぐに生徒たちは嫌な予感を覚えて不安げな表情を見せ始めた。
そんなことはお構いなしに笑みを浮かべたままの南沢は板野の方へと近寄っていく。板野は一層と怯えた様子を見せ始める。
「い、いつ私がそんなことを……お前に言ったかな? 勘違いじゃないの、かな……?」
板野は身の危険を感じ後ずさる。恐怖に引きつった笑顔で南沢を刺激しないような穏やかな口調で言う。
「俺に何度も言っていたさ。だから俺は知りたいんだ。皆がどんな人生を送り、どんなことをしてきたのかを。素晴らしい頑張りのストーリーを俺に見せて欲しい。口から聞くんじゃなくて『直接』知りたい。そして比較するんだ。俺の人生と」




