四
「イチ、また会ったな」
カコは驚きのあまりぱっくり口を開いた。
久しぶりに古井戸に水を汲みに行かされた日、いつものように店の裏の道をえっちらおっちら歩いていると、何か大きな影に通せんぼをされた。怯えながら顔を上げると、そこにはあの日と同じ格好をしたコウが立っていた。
「あ、お、お久しゅうございます」
「元気にしていたか」
「はい。あの、あの、明里ねえさんに御用でしょうか?」
「明里・・・・・・ああ、あの天神か。いいや、今日はおまえに会いに来たんだ」
カコはふわふわと自分の心が舞い上がっているのを感じた。もう一度こうして会えただけでも幸せなのに、その上彼はわざわざ自分に会いに来てくれたのだという。
「うちに何の御用でしょう?」
どきどきしながら尋ねると、男は何かを思案するように顎に手を当てた。そしてごそごそと懐を漁り、可愛らしい風車を取り出した。
「これをやろう。外の露店で買ったものだ」
「わあ・・・・・・!」
赤い千代紙がいっそう可愛らしく、カコは生まれて初めての誰かからの贈り物に目を輝かせた。その顔をじっと見て彼が同じように顔を緩ませていたことには気付かず、心の底からお礼の言葉を口にした。
「イチは、俺の探している妹に似ている」
「いもうと」
「俺は妹を探して旅をしている。おまえの笑った顔が特に妹にそっくりで、懐かしくてな」
カコは思わず顔を赤くした。見上げたコウが、あまりにも優しい目をしていたからだ。
「今日はイチの話を聞きにきた。何でもいい、おまえの話を聞かせてくれ」
「うちの、はなし?」
「そうだ。生まれはどこだ? 店での生活はどうだ」
カコはもごもごと口籠ったが、コウが彼女と目線を合わすようにしゃがみこんだので何か言わざるをえなくなった。
「うちは、うちの、うちの本当の名前は、イチじゃなくてカコです」
「カコ。そうか、カコか」
「うちにはにいちゃんが三人と弟が一人いて、ここは、ここでの暮らしは楽しくないけど、でも、うちはここにいるしかないから」
もしも店を追い出されたら、身寄りのないカコは野たれ死にするしかなくなる。特別生に執着があるというわけではなかったが、道端で犬や烏の餌になるのは嫌だった。俯くと地面に置いてしまっている水桶が目に入って、カコは唐突にこれを店に持って帰らなければいけないことを思い出した。
「あの、これ、持って帰らないと怒られるから」
「・・・・・・ああ、なら、店まで俺が持とう」
前回と同じようにひょいと棒を肩に担いだコウは、前に立ってすたすた歩き出す。その広い背中を追いかけながら、カコは手の中の小さな風車をしげしげと眺めた。これを、この人が自分のために買って来てくれた。
「気に入ったようでよかった」
後ろは振り向かずぽんとそんなことを言うコウに、ふふふと笑う。宝物にしようと心に決めて、カコは足どり軽くコウの後ろを歩いた。




