終
一面に広がる真っ赤な花が、ざっと吹き抜ける風で一斉にゆらゆらと揺れる。月の光に照らされる曼珠沙華の群れには、この世のものとは思えぬ不気味さが漂っていた。
人っ子一人いないその草原に、ぬうっと現れる影があった。その美丈夫は、よく見るとその腕にまだ十かそこらの子どもを抱いている。ざくざくと曼珠沙華の群れの中を突っ切った男は、高台に登ったところでようやく腕の中の子どもを下ろした。
「見ろ、ここなら月がよく見える」
「わあ・・・・・・!」
そこには、恐ろしいほど大きな月がぽっかり浮かんでいた。その子どもーーカコは一頻りはしゃいでから、隣にいる青年コウをちらっと盗み見ようとして思わず固まった。
「ーーん?」
どきっとするほど優しい目が、じっとカコを見つめていた。思わずぎこちなく目を逸らしてしまったカコは、しばらくしてからもう一度彼の方を見た。巨大な月に照らされる彼の横顔はこの世のものとは思えぬほどに美しく、彼女の背を何かぞくっとしたものが走り抜ける。思わずそのひんやり冷たい腕にしがみついたカコを、コウはひょいと抱き上げた。首に手を回してぎゅっと抱きついてくる彼女の頭を、優しく撫でる。
「どうした、怖くなったか」
「・・・・・・ううん、怖くない。コウがいてくれるから、怖くないよ」
だからずっと一緒にいて、と懇願する子どもを、彼はまるで壊れ物を扱うかのようにそうっと抱きしめ返した。小さくて細いその身体は少し力を入れればすぐに壊れてしまいそうで、いつも彼を不安にさせるのだった。
「ああ、ずっと一緒だ。約束の印に、これをやろう」
コウが手渡したのは、いつしかに壊れてしまったあの風車だった。赤い千代紙が可愛らしく、風に吹かれてからからと軽やかな音を立てている。にっこりと笑ったカコの頭を撫でて、コウはまるでこの世の終わりのように大きな月に背を向けた。
「うちに帰ろう、チヨ」
一瞬目を見開いたカコはしかし、すぐにとろけそうな笑みを浮かべて彼の首に手を回した。ゆっくりと暗闇の中に消えてゆく二人の姿を、ただ月だけが静かに見つめていた。




