不登校とゆっくりさくや
今回は少し暗めな話になります。
八月七日六時頃、日が中途半端に沈みかけていた。
僕は一人で考え事をしながら、隣町を歩いている。
ちぇんが我が家に来てから今日で四日目、僕が自分を責めて自分を追い詰めることは無くなっていた。
四日前までと比べて圧倒的に幸せだろう。
しかし、やはり僕は駄目だ。
今の僕は幸せな今に甘えて、先のことなんて何一つ考えていない。
辛い現実から逃げているだけだ。
みんなができている事は何一つやろうとしていない。
頑張ろうとしても怖くて動けないんだ。
僕は無力だ、僕は弱虫だ。
やるべき事は分かっていても、怖くて動けない。
僕はただの卑怯者だ。
そんなことを考えていると、いつの間にかとある空き地の前に立っていた。
かなり広い空き地に、ぽつんと一つの石でできたお墓と、その前に立っているゆっくりさくやの姿があった。
僕はその少し異様な光景に興味を持ち、さくやに声をかける。
「ゆっくりしていってね」
さくやは振り向いた。
そのさくやにはバッチが付いていた。
少しの間驚いたような表情を見せ、はっとして、
「ゆっくりしていってください」
どこか切ない笑顔でそう言った。
……それからの記憶はあまり残っていない。
僕は気がつけばアパートに帰っていた。
「ただいまー」
「おにいさん、おかえりなんだねー。きょうはらんしゃまがたくさんあそんでくれてとってもゆっくりできたんだよー」
出迎えてくれたちぇんが楽しそうに今日らんと遊んだことを話す。
「おにいさん・・・きょうほかのゆっくりとあってきたんだねー」
「!?」
何故バレたし。
笑いながらちぇんが言う。
「まめがはとでっぽうさんくらったみたいなかおして、ずぼしなんだねー」
「それを言うなら鳩が豆鉄砲な、何だよ豆が鳩鉄砲食らったような顔って・・・。ああそうだよ、ちょっと珍しいゆっくりに会ってきた」
「こんどよければちぇんにしょうかいしてほしいんだねーおともだちがふえるのはゆっくりできるよー」
会ったって言ってもほぼ喋ってないんだけどな。
しかし、楽しそうなちぇんを見ると僕も何だか幸せになる。
こんな幸せがずっと続けばいいのに。
午後10時、耳を澄ませばカエルや虫の鳴き声が聞こえる。
僕は夕方のさくやのことが頭から離れず布団の上で中々寝付けないでいた。
あのさくやはバッチを付けていたので誰かの飼いゆっくりなのだろう。
あれは誰の墓なのだろうか、気になるが聞いていなかった。
明日は聞こうかなと思い、そっと目を閉じた。
結局その日は12時の終わり頃まで眠れなかった。
ーー次の日の朝、僕は朝食を済ませて一人で昨日の空き地へ向かった。
空き地へ行くと、やはりさくやが墓の前で立っていた。
「またきたんですか、かわったにんげんさんですね。ゆっくりしていってください」
僕が挨拶をする前にさくやはそう言った。
僕は驚いたがすぐに返事を返す。
「ゆっくりしていってね」
僕は昨日聞けなかった事をさくやに聞いた。
「そのお墓、誰のなんだ?」
「このおはかは・・・れみりあおじょうさまのおはかです」
れみりあお嬢様、ゆっくりれみりあのことだろう。
さくやが悲しそうな顔をする。何か辛い過去があるのだろうか。
「いや、ごめん。嫌な事なら無理に聞く気は無いんだ。」
「いえ、わざわざいらしてくださったんです。よければきいていってください」
さくやは過去のことを話し始める。
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さくやは、ここに建っていたお屋敷でご主人様と、ご主人様の飼いゆっくりとして、同じく飼いゆっくりであるれみりあお嬢様と一緒に暮らしてました。
ご主人様はとても優しいお方でした。
いつもさくややれみりあお嬢様と遊んでくれました。
暖かくて、とても幸せな毎日でした。
そんなある日、ご主人様はさくやとれみりあお嬢様にお留守番をするよう伝えました。
さくやたちは少し不安でしたが、ご主人様のお願いなので快く受け入れました。
ご主人様が出かけて3時間ほどでしょうか、ご主人様のお家が何故か突然燃えてしまいました。
最初はパニックになりましたが、今は自分やれみりあお嬢様の命が最優先だと思い、急いで脱出をしようとしました。
ーーしかしゆっくりの歩幅では間に合わず、さくやたちは炎に囲まれてしまいました。
れみりあお嬢様もさくやも、激しい炎の中酸素が足りず、もはや体力も限界でした。
するとれみりあお嬢様は、割れた窓を発見し、最後の力を振り絞ってさくやを窓の外に放り出しました。
もう体力も限界だったのでしょう。私を投げたきり、外からお声をおかけしても、返事は返ってきませんでした。
そしてさくやとれみりあお嬢様、ご主人様の思い出の詰まった大切なお家は崩れました。
さくやは泣きました。
泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣きました。
さくやの体も限界だったのでしょう。最後に薄れゆく意識の中、自分がもっと早く気付けば脱出に間に合ったかもしれない、そもそも自分がもっと優秀なら火の元を消せたかもしれない。
そんなことを考えながら、意識は途絶えました。
しかし燃えた家は戻りません、亡くなった命は戻りません。
未練など数え切れないほどありますが・・せめて最後はれみりあお嬢様と一緒に永遠にゆっくりしたかった。
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気がつけば、さくやが立っていた墓の前には、さくやの所々焼け焦げたお飾りだけが落ちていた。
幽霊は自分と同じ気持ちの人に引き寄せられる、または引き寄せるらしい。
幽霊なんて本当にいるのかと思うが、ゆっくりは思い込みが激しく、それを時に現実にする不思議な生物だ、それは饅頭の癖に生き物として活動している時点で証明済みである。
死後を心から信じるなら、それは現実になるのだろう。
さくやはその最後、自分を責めていた。何もできなかった自分を。
僕は無意識の間に自分を責めて、気がつけばさくやに引き寄せられていたのだろうか。
僕はれみりあの墓の横にさくやのお飾りを埋めると、石で墓を作り、その場でしゃがんで手を合わせた。
「天国で・・・れみりあと幸せにな」
僕は家に帰るべく、その場から立ち去った。
僕もいつかはこんな甘えた毎日に未練を断ち切り、現実を見なければならない。
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じぶんをせめることもあるでしょう。
なにもできないときもあるでしょう。
こわくてうごけないときもあるでしょう。
じぶんじしんのじゃまをするときもあるでしょう。
それでも、
かなしいときも
つらいときも
うれしいときも
しあわせなときも。
うまれてからこのよをさるまで、ずっといっしょにいるたいせつなひとをわすれないでください。
じぶんをたいせつにしてくれるひとがいることをわすれないでください。
台詞が少なくなりすぎてしまいました、すみません。
そろそろ夏も終わりですね。
夏の終わりは何故だか寂しくなります。
秋も冬も楽しみな筈なんですけどね。