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探偵茶番

作者: いちみんればにら

探偵による推理とはショーであり、劇場であり、何より茶番である。その中にあって探偵は三枚目もいいとこで、一枚目二枚目なんて顔は、この舞台は必要としない。演者はせいぜい場を盛り上げる笑いのセンスと度胸しか持ち合わせていないものだ。

重ねて言う。推理とは探偵の起こす茶番である。読むにあたって肝に命じておくことはそれだけでいい。

 探偵による推理とはショーであり、劇場であり、何より茶番である。その中にあって探偵は三枚目もいいとこで、一枚目二枚目なんて顔は、この舞台は必要としない。演者はせいぜい場を盛り上げる笑いのセンスと度胸しか持ち合わせていないものだ。

 重ねて言う。推理とは探偵の起こす茶番である。読むにあたって肝に命じておくことはそれだけでいい。




 横たわる死体。血がにじむ床。それを囲うように三人が立っている。

犯「私が犯人だ。動機を当ててみてくれ」

助「こいつ何でこんな偉そうなんだ」

探「まあまあワトソン君落ち着きたまえよ」

助「ワトソンちゃうわ」

探「トワソン君?」

助「ちょっといじっただけか。ひねりがないな」

探「トワソンくんかくんか」

助「変態は死すべし」

探「さて。腋を嗅ぐのはこれくらいにして本題に戻ろうか」

助「嗅ぐな嗅ぐな。脇道走らずさっさと真ん中走れよ」


探「犯人よ、君が彼を殺したと認めるのだね?」

犯「ええまあ」

助「照れくさそうだな。もうこの人無視していいですかね」

犯探「いや動機がだね」

助「それは警察が取り調べで明らかにしますから」


探「やや、腹部を中心に血だまりが……すなわちこれはナイフで深く腹部を刺されたことによる失血死か」

助「ナイフ刺しっぱなしですね」

探「んんっ、死体のそばに落ちているのは……溶けた棒つきアイス……。そうか、"アイスクリーム・シンドローム"……!」

助「うん、それアイス食べて頭キーンなるやつ。かっこつけても頭キーンだから」

探「死因は冷たいものを食べたことによる腹痛」

助「腹痛っちゃ腹痛だけど。そこ、犯人もうんうん頷かない」

犯「ちょっとお腹痛いんでお手洗いに行っても?」

探「ああはいどうぞ」

助「おいおいみすみす逃がす気か。驚きを隠せませんね」

探「あ、うっかり……。逃がさんぞ犯人よ」

犯「我慢できないんです」

助「ああもう、分かりました。私がついていきますから」

犯「えっ」

探「やだ助手君大胆……」

助「お前らの想像の飛躍についていけねえよ。何が大胆だ」


 お手洗いの戸を挟み、逃亡を防ぐ意味で声をかける助手。

助「それで、実際のところ、どういう状況で殺したんですか」

犯「それを君に言うわけないじゃないか、せっかくの茶番が台無しだ」

助「自覚ありですか、厄介だなこいつ」

犯「そう、私はこの茶番を楽しんでいるのさ。いずれ然るべき場所へ連れていかれるまでの余興としてね」

助「あー早く警察来ないかなー」

犯「悲しめばいいのやら喜べばいいのやら、この大雨だ、山中の道が危険とかでロッジに到着するまで日をまたぐそうだからね」

助「先生も縄で縛りつけておけばいいものを」

犯「私にこれ以上罪を犯す気力はないよ。それに、犯す必要もない」

助「え?」

犯「彼は、既に気づいているようだ」




 お手洗いから戻ると、探偵と被害者が談笑している。

探「あっはっは」

被「はっはっは」

助「何だこれ何だこら何だこの!」

犯「おお、おお、動揺してる動揺してる」

探「ん、戻ってきたのかいワトトトソン君」

助「あば、あばわわばば」

犯「あらら、すっかりやられたみたいだね、助手の彼女」

探「無理もない。何しろ血まみれの死体が動いてナイフ刺さったまま呑気に笑っているんだから」

犯「いつ分かった?」

探「それはだね……」

助「どっどっどどうしなぜなんですか」

探「君は落ち着きなさい。そのムラのある敬語を使わなくてもいいから落ち着きなさい」

助「何でだおい」

探「おっと、急に冷めるのいいね。その豹変ぶりにムラっとくる」

助「上手くない。座布団持ってくぞ」

探「座布団持ってないよ」

助「じゃあ剥くぞ」

探「どうぞ?」

助「剥かねえよアホが」

探「意気地なし」

助「何でだおい」

被「待った待った話題がすり替わってる。とりあえず話を戻そう、な?」

犯「血だらけの男が喧嘩の仲裁を図ってるなう、と」

被「そこも自分の立場わきまえて。変なことつぶやかないで」


探「ではまずこの犯人が不死身であることから話そうか」

助「待て待てのっけから破綻してる」

探「破綻してない。事実ナイフ刺しても生きてるじゃん」

助「それは刺しても死ななかったから成立する理由じゃないですか」

探「怪我の功名だね」

助「何か違う気がする」

探「まあとにかく、これが前提だ」

助「……釈然としないけど、ええ」

探「ナイフで刺され、被害者は出血多量。さすがに不死身の被害者でも、貧血で倒れるくらいにはなるだろう」

助「貧血て」

被「いやあ、よく貧血起こすんだよ僕」

助「あんたこのレベルでやっと貧血になるなら普段から相当修羅場くぐり抜けてきてるんじゃないか」

被「この前の貧血は確かケルベロスに噛まれたときだったかなぁ」

助「さらっと別の怪物の存在ほのめかしてるよこの人。いやこの怪物」

探「貧血で一時気を失った瞬間に我々が出くわしたことからこの茶番は始まった」

助「ケルベロスって聞き流されるくらい当たり前だったっけ。現実って何だっけ」

探「少しツッコミ抑えてくれないかワトソンソン君」

助「ストレートに結論に行ってくれればこうも頻繁にツッコミ入れることもないのに。ワトソンで遊ばないと死ぬのかあんたは」




探「僕が被害者の状態に気づいたのはアイスの残骸を拾ったときだった」

助「変な横文字使ってたときですね」

探「そう、それは気絶を早めた要因でもあるね。頭キーンてなって」

助「皮肉が通じないなー……」

探「ほらこれ、ガリッとした固さが売りの棒付き氷菓子だろう?それが二本。つまり彼らはこのアイスを食べようとしてたんだ」

助「はあ」

探「しかし、なぜかこのアイスは袋から取り出され二本重ねたままラップに包んで冷凍庫に入れられていた」

助「本当にどうしてでしょうね。袋から出しておいて食べずにまたしまうなんて」

被「あっ、それ僕ですね。昨日二人で食べようとして、やっぱり明日にしようって」

助「優柔不断か」

犯「あっ、それ私が昨日腹痛で諦めたからで」

助「なら今日もだめじゃん」

探「そうして今日再びアイスを取り出すと」

助「続けるのか貴様」

探「……再びアイスを取り出すとあら不思議、二本くっついて離れなくなってしまった」

助「不思議でもなんでもなく順当な結果だよ」

探「溶けた部分がまた凍ってくっついてしまったんだねえ。これでは二人で食べられない。なんとか綺麗に剥がす方法はないだろうか……そこでナイフだ」

助「うわいきなり凶器飛び出してきたよ発想が飛躍してるよ」

探「ナイフで境目をガツンとやればスイカみたいに割れるんじゃね?と」

助「スイカ割りでは棒使うよ?」

探「そして手を滑らせた犯人によって、あの状況に至る」

助「被害者が死んでても笑い話になるくらいのひどい顛末ですね。これが本当なら」

被犯「いやまったくその通りでして」

助「こいつら、あほなのか」


 翌朝、警察が到着し、状況を確認したものの、血だまりは残っていても被害者は傷口がふさがってけろっとしているわけで、せいぜい傷害事故(不死身の人間にとっては包丁で指に切り傷ついた程度)にしかならないということらしく。というかそもそも傷害が起きたことを、警察が確認できなかったため、被害者の強い意思もあってこの事件はお蔵入りに。

 ……ね。茶番だったでしょ。


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