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クエスト8.:獄炎鳥

 リム様をSクラスギルド・ルーンヌィに加入させる……そんな無謀な挑戦(クエスト)をする事になった私だったがやると決めたら意外と心は晴れやかだった。冒険者であるリム様の助力になる事であり、万が一にもこのクエストを達成できるような事があればルク先輩の言うようにこのナフコフとルーンヌィに強い結びつきができるのは間違いない。結果はどうであれ少しでも前に進んでいこうという営みに携わる事が嬉しかったのだ。

 そして今日は本クエストを進めていくうえでの会議をルク先輩と行う事になっていた。


「それでは本クエスト達成に向けての会議を行いたいと思います」


 私とルク先輩はナフコフの中央にある丸テーブルに対面で座り、せっせと用意した資料をテーブルの上に広げる。


「まずは今回のクエストの達成条件はリム様がルーンヌィに入る事、となるわけですがこれにはいくつかの方法が考えられます」


 私は眠たそうな顔で頬づえをつくルク先輩の顔を見ながら話を続ける。


「まず一つ目はリム様が支配者(プラヴィーチリ)の称号を取得するという方法です。支配者の称号を取れば即ルーンヌィへの加入が確約されるわけではありませんがリム様は現在14歳。これは冒険者の中でも相当若い部類に入ります。支配者の最年少記録ホルダーは同じくルーンヌィの神童エルナイト様ですがそれでも12歳の時となります。年齢を考慮すれば加入できる可能性はかなり高いでしょう。ですが支配者の称号を得る為には最低でも単独でA難度のクエストを10個以上達成する必要があります」


 そう。これはあくまでリム様がすぐに支配者の称号を取れたら、という仮定の話である。駆け出し冒険者であるリム様はA難度のクエストを達成するどころか受注する事すらできない。その難度から支配者という称号自体冒険者の中でも二桁しかおらず、初心者のリム様がすぐにこの称号を取るのはまず不可能だ。


「二つ目にルーンヌィの加入条件である支配者以上の称号を持つ者……という条件外での加入を目指すというものです。加入条件を満たしていなくても特例で人員を補充するギルドは少なくありません。欠員や規模の拡大、受注クエストの難度による一時的な増員等が主な要因ですね。資料にも書いてありますがここ一ヵ月の間でも13例あります。ただし格式高いギルドほど条件を緩和する事はほとんどないといっていいです。当然の事ながら覇権ギルドであるルーンヌィも結成以来その条件を崩した事はありません」


 ルーンヌィへの加入条件の緩和……これも現実的ではない。なにせ少数で力を誇示し続けてきたギルドだ。人数的に厳しいと思われるクエストも少人数で苦も無くこなしてきたし、本来上位ギルドが加入条件を変えてまで入れるというのは相当な事情がない限りあり得ない事だからだ。


「おいおいミリシャ、お前のその言い方だとリムがルーンヌィに入るのは無理だと言っているように聞こえるが?」


 ルク先輩が腕を組んだまま私に問う。先輩の言う通り今話した二つの方法はどちらも難しい、いや可能性は0と言ってもいいかもしれない。でも私は今回のクエストを受注したあと三日間寝る間も惜しんで考えに考えたのだ、リム様がルーンヌィに入れる可能性を。


「ふっふっふ……そう聞こえますよね」


 思わず得意気な笑みが零れる。


「あったんですよ! リム様がルーンヌィに入れるかもしれない可能性が!」


「へ~」


「ちょ、ちょっと! なんで興味なさそうなんですか! ちゃんと聞いて下さい」


 一つ咳払いを入れてから、とある資料をルク先輩の方へと向ける。


「これは来月取り扱われる事が決まったクエスト一覧表です。その中で大手クエスト受付所が取り扱うクエストの中にS難度のものが一つだけあるのですが、ここ見て下さい」


 私は赤くマークをつけた部分を指さす。そこには『獄炎鳥グレンウイグルを討伐せよ』難度S、と書かれていた。


「獄炎鳥か。焼いて食ったら旨いんだよなアレ」


「そんな焼き鳥屋に出て来るような鳥じゃありませんよ! もう、いいからこのクエストの条件の部分を見てもらえますか?」


「条件?」


「そうなんです。このクエストってかなり珍しい初級冒険者の同行が絶対条件のクエストなんですよ!」


「ほ~なんで?」


「実は獄炎鳥は紅の殺戮者と呼ばれる戦闘能力を有しながら警戒心が極めて高い鳥なんです。その為中々討伐が困難だったらしいのですが、最近の研究でどうやら一定レベル以下の冒険者には無条件で向かって来るという習性が見つかったようなんです」


「つまりリムが食われている間に獄炎鳥を討伐するって事か。鬼畜だなお前」


「ち、違いますよ! ま、まあリム様に囮役になってもらうのはその通りなんですけど……でもだからこそ失敗の許されないこのS級クエスト、ルーンヌィが手を挙げる可能性が高いと思うんですよね」


「お前がさっき言ってた条件外での加入の亜種ってとこか」


「そうなりますね、もちろんこのクエストだけの限定的なものにはなりますがそれでもルーンヌィのメンバーになれる事には違いないわけですから」


 ルク先輩はその場で少し考え込む。その表情はいつになく真剣だ。


「ど、どうですかね?」


「……うん、いいんじゃないか。いや、凄くいい。お前は天才だ」


 いつもはからかうばかりでほとんど褒めてくれる事などないルク先輩のその言葉に少し感動してしまう。


「そ、そんな事ないですよ。あ、はは……やだなぁ本当に、ルク先輩らしくないですよ。それに先輩がリム様のクエストを受けるって言わなければこんな案も出てこなかったわけですから……先輩のお蔭です」


「いや、本当に成長したよミリシャは」


「せ、先輩……」


 私は思わず泣きそうになってしまい、必死に目頭を押さえて溢れだしそうな涙を堪える。


「も、もう駄目ですよ、まだうまく行くなんて決まったわけじゃないんですから。ちゃんとリム様がルーンヌィに入れた時に褒めて下さい」


「あぁ、ちょっと気が早かったな。ところで獄炎鳥ってどうやって呼び寄せるんだ?」


「あ、それはヒーテック山の頂上でレベルの低い冒険者が一人待っていれば高確率で現れるそうですよ」


「ふーん」



――――数日後 ヒーテック山頂上――――



「どうだ~ミリシャ? 獄炎鳥は現れたか」


 遠くから声を掛けてくるルク先輩。

 私は山頂の崖に立てられた十字架に磔られ、身動きが取れない状態のまま咆哮をあげる。


「ごらぁぁぁぁ! これ早く解けぇぇぇぇ!!」


 熱風吹き荒れるヒーテック山の頂上で私の怒りもまた頂点に達していた。


「ルクちん、大丈夫なんでしょうかミリシャさん。凄く怒ってますけど」


「気にするなリム。あいつはああ見えて強い女だ。それにこれと同じことをお前にさせようとしていたんだからな、身を持って安全かどうかを事前に確認するのはクエスト受注者の使命だ」


「磔の必要はないでしょうがぁぁ!」


 悲痛な私の叫び声が山彦になってこだまする。

 結局、私は冒険者じゃないので獄炎鳥は現れませんでした。


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