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クエスト7:歩件

 私は昨日の事を思い返しながらナフコフの天井に吊るされている灯りのつかない古い電球を見つめる。

 リム様に依頼されたクエスト。本来ならば書類提出の時点で即弾かれてしまうような無茶な案件だ。私はそれでリム様にクエストのいろはが少しでも分かってもらえれば良いなという安易な気持ちで受けてしまったが少し風向きが変わって来た。そしてその風向きを変えたのは意外な事に怠惰の象徴であるルク先輩であった。

 昨日の先輩の言い方だと、自分ならばこのクエストの申請を通す事ができる。そう言っているように聞こえた。今回の「冒険者リム・フランフェザンをSクラスギルド、ルーンヌィに入隊させる」という依頼は間違いなくSランク以上のクエスト、恐らくはSS難度に分類されるだろう。そのクエストを取り扱おうと思ったらクエスト登録検定【月長石(ピエトラ)】の資格が必要……そんな事くらいルク先輩だって重々承知しているはず。にも関わらずあの自信は……


(ううん……まさか、ね)


 ガチャリ――

 

 建付けの良くなった縦長の扉が開く、少し遅れて出勤して来たのは今や私の興味を一身に集めるルク先輩だった。


「あ……お、おはようございます」


 普段見慣れた顔なのに何故だか少し緊張してしまう。そんな事あるはずはないのに、こんな小さな受付所のこんなずぼらな先輩が……月長石だなんて事……


「あーそういえば昨日のリムのクエストの申請な。クエスト総本部に提出してきたぞ」


 ドキ……

 いきなり核心をついてくる言葉に心臓が大きく高鳴る。


「あ、あーそうなんですね……はは、やっぱり無理でしたよね?」


 そう言いながらルク先輩の顔を横目で覗き込む。


「あぁ無理だった」


「無理だったのかよ!」


「うぉ!? なんだ急に大声出して」


「完全にルク先輩がSS難度のクエスト申請を通してくる流れだったじゃないですか! なんで普通に無理なんですか!」


「いや、お前ほんとビックリするぞ。まずSランク以上の申請って申請料だけで5000000ルーブとか必要なんだよ。ボッタくりすぎだろ総本部」


「あ……なるほど、そうですよね。うっかりしてました。その申請料がウチでは払えないから申請できなかったんですね」


「まあそれもある」


「それも?」


「そもそもSランクの申請を出す資格も持ってなかったしな」


「なんで持ってないんですか!?」


「え、そりゃ持ってないよ? Sランクの取り扱いとか月長石の資格がいるんだぞ。俺が持ってるわけないだろ」


「れ、冷静に考えればそうなんですけど」


 何を舞い上がっていたのだろうか、よくよく考えればルク先輩が冒険者の為にそんな超難関の資格を受ける事などあり得ない。一人浮かれていた自分が恥ずかしい。

 ……でも、それならそれでリム様にキチンと話ができるというものだ。現実を知ってもらい一から冒険者の道を歩んでもらう、今回の件はきっといい切っ掛けになるはず。


「では私がリム様に今回依頼頂いたクエストは受理されなかった事を伝えておきますね」


「ちょっと待て、なんでだ?」


 ルク先輩は首を傾げて聞いて来る。相変わらず不思議な事を言う先輩だ。


「なんでって、仕方がないじゃないですか。クエスト登録する事ができないんですから」


「今回のクエストは歩件だろ? 総本部なんて通さずに勝手にやればいいだろ」


「はい?」


「だから俺達が個人的にそのクエストを受注するって事だよ」


 俺『達』ですと!?


「え~と。つかぬ事をお伺いしますが、その『達』というのに私は含まれているのでしょうか?」


「当然」


「い、嫌ですよ! っていうか無理です! そんなクエスト私達の力でどうこうできる物じゃないじゃないですかぁ!」


「なんだなんだ、普段は冒険者様の為とか言いながら自分に白羽の矢が立つと逃げ腰か? 立派になったなミリシャ」


「ぐ……先輩こそ随分リム様にご熱心じゃないですか」


「当たり前だ、あいつがクナシャスの覇権ギルド、ルーンヌィに入った所を想像してみろ……超ウケるだろ」


「そんな理由で!? だ、駄目に決まってるじゃないですか!」


「ミリシャ、よく考えてみろ。もしリムがルーンヌィに入ったらウチとSクラスギルドに強い結びつきが生まれる事になるんだぞ? それでもそんな理由と言えるのか?」


「う……それは確かに、そんな事になったら凄い事ですが……」


「決まりだな。じゃあこの案件は裏クエストとして勝手に引き受けるぞ」


 ルク先輩の目はマジだ。

 でももし本当にそんな事ができるのであればギルドとの繋がりもできてこの『ナフコフ』に沢山冒険者の方が来てくれるのかな……

 少し釈然としないが、流されるままに私は今回の裏クエストの受注者の一人になったのであった。


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