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クエスト42:その結末……

『うぉぉぉ! 竜を倒せぇぇぇ!!』


 ドラギスちゃんに飛び掛かって行く冒険者達の目は正義感と復讐心が交じり合い血走っていた。


「ミリシャさん! どうしましょう、このままじゃあドラちゃんが、ドラちゃんが……」


 その光景を目の当たりにしてすがる様な目でこちらを見てくるリム様。

 私は決断しなくてはならなかった。ドラギスちゃんを取るか、慣れ親しんだ職場であるナフコフを取るか……そして後者の選択は私がクエスト受付業に永久に携われなくなる事も意味していた。


「助けましょう。ドラギスちゃんを」


 それでも私は即答する。そこに迷いはなかったからだ。ドラギスちゃんの種族の平均寿命は20年、そして一度の変身の度に10年寿命が削られると言っていた。つまり己の命を賭して罪を背負い私達を庇おうとしてくれている。そんな大事な友達を何かと天秤にかけるような真似をできるはずがないのだから。


「やめとけミリシャ」


 急に右肩を引っ張られてバランスを崩す。冒険者達の前に割って入ろうとした私の肩をガッシリと掴んだのはルク先輩だった。


「っルク先輩! ドラギスちゃんを見殺しにしろっていうんですか!?」


「お前がここで出て行ったら共犯者だと認めた事になる。それはドラギスの命を懸けた思いを無駄にするという事だ、分かるな?」


 冷静に淡々と話す先輩につい私は声を荒げる。


「全然分かりません! ドラギスちゃんは友達です、もし私が動く事でナフコフの迷惑になるというなら私は今ここでナフコフを辞めます! だから助けに行かせて下さい」


 私は声を震わせ先輩に懇願する。そしてそんな私の言葉を掻き消すかのようにドラギスちゃんのうめき声が聞こえて来る。


「ガウゥゥ……!」


 ドラギスちゃんの右足には冒険者の剣が突き立てられ硬い皮膚からは血が滲み出ていた。


「ドラちゃん! ミリシャさん、私も行きます。今ドラちゃんに剣を突き立てた奴の顔面に頭突きを食らわせてやりますよ!」


「おいおい、リムまで何言っているんだ。ちょっと落ち着けお前ら」


「これが落ち着いていられますか! ルク先輩に迷惑はかけませんからこの手を離して下さい!」


「ふぅ……お前らがやろうとしている事はドラギスの気持ちを踏みにじる行為だ。それでもいいんだな?」


「「はい!」」


 私とリム様は同時に返事をする。今ドラギスちゃんを助ける事より優先されるものなどないのだから。


「……やれやれ、仕方がないな。またブタ箱に逆戻りかよ。まあ公衆の面前で冒険者達を踏みにじれるならそれも悪くはないか」


 先輩は溜息をつきながら私の右肩から手を離す。


「ルク先輩……! すいません……ありがとうございます」


『行けぇぇぇ! 竜を抹殺しろぉぉぉぉ!』


 冒険者達の叫び声がこだまするナフコフで私は覚悟を決める。今いくよ、ドラギスちゃん!



「……現実罠発動。グーパンチ」


 バリバリバリバリィィィ!!

 突然目の前の地面が地割れを起こす。

 ドラギスちゃんの加勢に向かおうとした私達はその予期せぬ出来事に躊躇し立ち止まってしまう。そしてそれはドラギスちゃんを攻撃していた冒険者達も同様だった。


『な、なんだぁ! 何が起こった、竜の仕業か!?』


「……先ほどから随分と騒がしいが、誰の許可でこのデュエルに横入りしているのだ貴様らは」


 ざわつく冒険者達に静かに語りかけたのは椅子に座ったまま拳を地につけたクックスターさんだった。


『ま、まさかお前がやったのか!? どういうつもりだ!』


「質問の意味が分からないな。私はただ攻撃宣言に対して罠カードを発動しただけだが? それより私は聞いているぞ、誰の許可で、誰のデュエルの邪魔をしているのだ、とな」


『ふざけるなぁ! この状況でデュエルだと!? 中止だそんなものは! 人間に化けた凶悪な竜が目の前にいるんだぞ!?』


「人間に化けた凶悪な竜? それがどうした。モンスターヴィーゾフのルールブックには竜が参加してはならない等と書かれてはいない。それよりも突然介入して来てゲームの進行を妨げる、ルールを犯しているのは貴様らだ。私のデュエルの邪魔をするな……邪魔をするのなら」


 バリバリバリバリィィィ!!

 今度は冒険者達に向かって地割れが延びて行く。


『ひ、ひぃぃぃ!』


「あぁ、すまない。モンスターヴィーゾフは危険なゲームだ。現実罠に観客が巻き込まれるなんて事もあるやもしれない。命が惜しければ帰宅をお勧めしよう」


『こ、こんな事をしてただで済むと思っているのか!』


「ほう、面白い冗談だ。ただで済まないとはどういう意味なのか教えてもらえるか? 今、ここで」


 クックスターさんはほとんど表情を変えないまま殺気だけを飛ばす。それを感じ取った冒険者達は縮こまり何も発言できなくなっていた。


「あぁそれと、私はデュエルで勝ったらこの竜をセンチュリオンに勧誘しようと思っているのだ、こいつは中々筋がいい。つまり……今後この竜にちょっかいを出すときはマスターである私を通してもらえるかな?」


 クックスターさんの問いに冒険者達は無言で首を上下にブンブンと振る。


「ふふ、あくまで勝ったら、の話だがな。さて、デュエルの邪魔だ。帰っていいぞ」


『は、はひ! 失礼しましたぁぁぁぁ!!』


 蜘蛛の子を散らすようにナフコフを飛び出て行く冒険者達。その様子を遠巻きに見ながらしばし呆然としていた私はハッとする。


「あ、あのクックスターさん! ありがとうございました!」


 私は深々とお辞儀をし感謝の意を述べる。


「お礼を言われる筋合いはないな。むしろお前の所の竜を勝手に勧誘しようとしているのだ、罵倒の一つくらいあってもよいのだぞ」


「いえ、いえ、本当にありがとうございました」


 感謝しても感謝してもしきれないくらいだ。クックスターさんはドラギスちゃんとナフコフを同時に救ってくれたのだから。


「ちっ、クックスター。こんな事で貸しだなんて思うなよ」


「ふん、貴様こそまさかこの程度の事で借りだなどと思う男ではないよな」


 先輩とクックスターさんがなにやら話をしている間に、私とリム様はドラギスちゃんの元へと駆け寄り傷口を覆うように布を当てる。


「ドラギスちゃん。ありがとう、ごめんね」


 それ以上の言葉は出てこない。これ以上の感謝もない。接した時間も種族も関係ない、本当に守りたいものが無事だった安堵感から思わず涙が込み上げてくる。



「さて、続きはどうする?」


 滅茶苦茶に壊れて閑散となったナフコフでクックスターさんが上空を見上げてドラギスちゃんに問いかける。


「グルル……サイコロ、モデナイカラ……」


「そうか。では今度その大きさのままでサイコロを振る方法を教えてやろう。その傷だ、今日の所は負けておけ。ゲームは体が資本だからな」


 そう言ってクックスターさんは席を立ち、ナフコフを後にするのだった。



●ドラギス lose……


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