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クエスト41:竜の友達

 クックスター・トリオットハート。元A級ギルド、センチュリスのマスターであり現センチュリオンの創設者。階級申請こそしていなかったものの当時その実力は支配者(プラヴィーチリ)をも軽く超え輝星(ズヴェズダー)にさえ届くと言われた女傑。


 しかしセンチュリスの活動期間が短かった事と表舞台に出て来ることはほとんどなかった為、冒険者時代の彼女の実力を知る者は少ない。私もクエスト受付業務に携わっていながらも風の噂程度でしか聞いたことがないのだから一般の人達には名前すら浸透していないのも当然だ。そういった背景もあってなのかセンチュリオンの大将クックスター・トリオットハートは実名で堂々とゲームを楽しむ為だけに同ギルドを作り、そのゲームでの活躍から一般的にはモンスターヴィーゾフのカードマスターとしてのみ認識されている。




「アパッチキャットを守備表示。更に場にカードを一枚伏せてターンエンドだ」



アパッチキャット【猫族】

★★★

ATK:1100

DEF:800

■雄々猛々しく雄叫びをあげる猫。



 ついに始まったチームナフコフとセンチュリオンとの大将戦。先行のクックスターさんは定石通り守備表示でモンスターカードを場に出し自ターンの終了を宣言する。


「静かな立ち上がりですね。ところでリム様、ドラギスちゃんはロボニッヒにどんな戦術を教えられているんですか?」


 勝負の場に座ったドラギスちゃんの後ろで勝負の動向を見守りながら、同じ師にモンスターヴィーゾフのいろはを教わったリム様にドラギスちゃんの戦法を尋ねる。


「戦術ですか? え~と確かドラちゃんは、矢倉、穴熊、三間飛車を中心に守りと攻めのバランスを考えて攻めるように教えられていましたけど」


「なるほど……モンスターヴィーゾフと関係ない戦術を教えられている事だけは分かりました。だとすると苦戦は必至ですね、なんとか頑張って欲しいですけど……」


 つい最近までモンスターとして生活してきて、まだ人の言葉もたどたどしいドラギスちゃんに短期間で複雑なカードゲームのルールを理解させ、勝利まで要求するのはあまりに酷な話だ。加えて師匠もポンコツなのだから絶望的と言っていい。

 それでも私達は託すしかないのだ、このナフコフの命運を、竜の友達に。


「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫ですよ~ミリシャさん。ドラちゃんにはいざとなったらおっぱいロケットがあるんですから」


「そうだぞミリシャ、ドラギスのおっぱいロケットなら例えクックスターでも絶命は必至。勝ったも同然だ」


 緊張感なく高笑いする二人。そのおっぱいロケットがこの大会に参加する事になった原因なんですけど……

 ただ、今となってはあれこれ考えても仕方がない。今はただドラギスちゃんを信じる他ないのだから。私は祈る様に戦場のテーブル席へと視線を戻す。そこにはガジガジとサイコロをかじるドラギスちゃんの姿があった。


「ど、ドラギスちゃん!?」


「が、硬いでず。お湯とがでふやかじで三分待たないど無理でずかね?」


「ドラギスちゃん、それは食べ物じゃないの! 振って、振るのドラギスちゃん!」


 マジでなに教えてたんだロボニッヒィィィィ! ゲームの進行すらままならないじゃない!


「ふふ……面白いな貴様」


 その様子をみていたクックスターさんが笑いながら口を開く。


「初心者か? ……いや、違うな。この匂い、以前に何度か討伐した事がある人ならざるモノの匂いだ」


 ドクン……

 私はその言葉に戦慄する。ドラギスちゃんの今の見た目は可憐な緑色の髪をした美女。にも関わらず歴戦の冒険者であるクックスターさんは一瞬にしてその正体を見破っているような口ぶりだったからだ。


「ふふ、人間の言葉は難しいだろう? それが原因で意図せぬ誤解や誇張を生んだりする、煩わしい話だ。しかしそれが奥深さでもあるのだよ、このカードゲームのようにな」


「がう?」


「どれ、サイコロを振るという行為だがな。今握っている手を開いてみろ、それだけでいいぞ」


 クックスターさんは諭すようにドラギスちゃんに声を掛ける。ドラギスちゃんは言われた通りにサイコロを握っている手を大きく開き束縛される圧力のなくなったサイコロはコロコロとテーブルの上に転がり「6」の目を出す。


「ほう、やるな。それは一番いい目だ。貴様このゲームの才能があるぞ」


 パンパンと手を叩きクックスターさんは続ける。


「その目なら手札にあるどのカードを出しても良いぞ。ただし星がついているカードを出すんだ、星がついていないカードは相手に不用意に見せるものではないからな」


 対戦相手を嵌めてやろうとか、そういった気持ちは一切感じ取れない。クックスターさんはまるで初心者の手ほどきをするようにゆっくりと丁寧にゲームの進行方法を伝えていく。


「がう……じゃあごれで」



ジャベリンホーク【鳥族】

★★★★★

ATK:2000

DEF:1500

■槍のようなクチバシを持つ鷹。低空で移動し確実に獲物を捕らえる。



「いいカードだ、引きも大したものだな。貴様、数字は読めるか? もし読めないなら感覚でもいい。私のカードと貴様のカードどちらが強そうに見える?」


「えーど……わだずのガードの方がづよそうでず」


「正解だ、それならば攻撃してくるといい。こうやって自らの五感を研ぎ澄ませて遊ぶのがこのモンスターヴィーゾフだ。良いカードが引けたときの高揚感、サイコロを振る時の緊張感、勝負に行くときの臨場感、いずれもこのゲームの醍醐味だ。覚えておいて損はないぞ」


 モンスターヴィーゾフを語るクックスターさんの顔はとても優しくそして嬉しそうだった。この試合は連覇を狙うセンチュリオンにとっても大事な勝負であり追い詰められているのは向こうも同じ……にも関わらずそんなのは小さな事と言わんばかりに試合中にゲームの楽しさを布教するクックスターさんに熱いゲーム魂を感じずにはいられなかった。


「でば攻撃させでもらいま……」


「「いたぞぉぉぉ!! あの女だぁ!!」」


 へ……?

 ドラギスちゃんが今まさに攻撃をしようかというタイミングでナフコフの入口の扉が乱暴に開く。そしてナフコフの中へとぞろぞろと入って来たのは体に縄跡をつけた複数の男性……いや、見覚えのある冒険者様……


「あ……あの人達って……!」


 そう、ナフコフへと入って来た十名を超える冒険者はドラギスちゃんが傷を負わせ、ナフコフ倉庫へと詰め込んでいた冒険者様達だった。


(ま、マズイ! まさかこんなタイミングで……!!)


「「ちくしょぉぉ!! 俺達はなぁ、そこの緑髪の女に串刺しにされた挙句、ここの倉庫で監禁されていたんだよぉぉぉ! 美味しい食事と手厚い看護、そして広いベッドを用意されてなぁぁぁ!」


 怒り心頭の冒険者様……当然だ。


「「だが許さねぇ! 俺たちはもう戻れねぇ! 縄で縛られるという快楽を覚えてしまった俺達はもう元の生活に戻る事なんてできねぇんだ! どうしてくれるんだナフコフの皆さんよぉぉぉ!!」」


「あちゃ~誰だよあいつ等を解放したの。やっぱり埋めておくべきだったか」


 額に手を当てて、しまったという表情を見せるルク先輩。

 考えてみればこのナフコフが試合会場になって、これだけの人が集まって、倉庫に閉じ込めていた冒険者様達が見つからないわけがない……

 と、いうよりも因果応報だ。結局のところ私達はナフコフを守る為に冒険者様を監禁していたのだから……これはもう立派な犯罪だ。


「……ルク先輩、もう諦めましょう。私達絶対に間違っていました。今更冒険者様達に謝っても許してもらえるものではないかもしれないですけど誠心誠意謝って罰を受けましょう……」


 ミシミシッ!!

 私が諦め、全ての罰を受ける覚悟を決めて目を閉じたその時……何かが肥大化して軋む音が前方から聞こえる。そして数秒も立たたずすぐに会場内から絶叫の悲鳴があがる。


『う、うわぁぁぁぁ! りゅ、竜だ! モンスターだぁぁぁぁ!!』


 その声に反応して目を開けた私の目の前には天井を突き破り巨大な竜の姿に戻ったドラギスちゃんの姿があった。


「グルル……ココノニンゲンヲオドシテオマエダヂヲツカマエタノニ、バレタラシガタナイ。ミンナフミヅブジテヤル」


「ドラギスちゃん!?」


『うぉぉぉぉ! 皆ぁ! この悪しき竜を討伐しろぉぉぉぉ!』


 監禁されていた冒険者達だけではない、ナフコフの中にいた腕に覚えのある人達も一緒になって武器を手に取りドラギスちゃんへと向かって行く。


「フン、ワダズニカテルカナ?」


「駄目、ドラギスちゃん!!」


「……ヤグニタタナイココノニンゲンドモハサッサトニゲルガイイ……アリガドウ」


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