クエスト40:最終決戦
「はぁ、はぁ……ふぅ――」
終わった……褒められた勝ち方じゃないけどなんとか次に繋げる事ができたよ、皆。
『うおおおお――! ゲヴォルグまで負けたぁ――! 凄えぞぉぉぉぉどうなってるんだ、誰なんだあの女はぁ!!』
「えっ……ちょっと」
激戦を終え一息ついていた私に会場内全体から大歓声があがる。センチュリオンの一角を崩しチームとしても追いつき追い詰めた。それは私が想像しているよりも遥かに大きな事件なのだろう。この歓声の大きさが何よりもそれを物語っている。
「やりましたね~さっすがミリシャさん」
リム様が満点の笑顔でタオルを持って駆け寄ってくる。
「あ……はい、リム様。危なかったですけどなんとかなりました」
「それにしても凄い蹴りでしたね、ミリシャさんって武術か何かやっていたんですか?」
「いえいえ、何もやっていないですよ。私自身ビックリしているんです。あんなに吹っ飛ばしちゃって」
予想外の蹴りの威力でゲヴォルグさんを星にしてしまったが大丈夫だろうか……
「ふっ、修行の甲斐があったなミリシャ」
「ルク先輩。あの、ありがとうございます。先輩の助言がなかったら私きっと諦めていました。……でも修行の成果って?」
「あぁ、それはな。お前が立派なクエスト受付係になれるように細工をしていたんだよ」
「細工?」
何それ、初耳だ。
「お前がナフコフで働き始めたその日から、お前の靴に1キロずつ鉛を仕込んでいたんだ」
「……え?」
「この二年間で積み重ねたお前の靴の重さは実に700キロを超える! そんな地道な鍛錬を経てお前の猛牛のような足は一撃必殺の破壊力を秘めるリーサルウェポンへと昇華していたのさ!」
それは流石に気付けよ私!
「凄いですミリシャさん! いつも涼しい顔をしながら実は研鑽の日々を送っていたんですね。乙女である事を捨てて内なる竜を右足に宿す事を選択するなんて尊敬しちゃいます!」
「あ、はい……どうやらそうみたいですね……」
泣きたい……なんだこれ。
「とにかくお疲れさん、よくやったぞミリシャ・ブリッツフット」
「わ、私の事をブリッツフットと呼ぶなぁぁ!」
試合に勝ったのに、試合に勝ったのにぃ、この仕打ちはなんなのよぉ。
「騒がしいことだな。浮かれるのはもう少し後にした方がいいぞ、恥をかくことになるからな」
「あ……」
いつの間にか向かいの席には相手の大将でありセンチュリオンの創始者、クックスター・トリオットハートが座っていた。
「しかし娘、先程の試合は面白い戦いだったぞ。まさかゲヴォルグまで負けるとは思わなんだがな。能ある鷹は爪を隠すというやつか」
「い、いえ、とんでもない。ホントにたまたまです」
私のその言葉に少しだけクックスターさんの目つきが鋭くなる。
「たまたまで負けるほどウチのメンバーは弱くはないよ。強者の謙遜ほど皮肉なものはないな」
「あ、す、すいません。そんなつもりじゃあ……」
私が謝罪をしようとした瞬間、ルク先輩がクックスターさんとの間に割って入る。
「おいおい、自分のとこの面子が不甲斐ないからって絡むのはやめて貰えるか? この場所は勝利者のみが発言する権利を有し、敗北者は地べたを這いずって逃げ帰る、そんな聖域だぜ?」
敗北者であるルク先輩の口は実に滑らかだ。
「……ふん、そんな事は分かっているさルク・スラーヴァ。だからこそ私は全ての権利を有するのだ、絶対的な勝利者としてな」
静かに語るクックスター・トリオットハートには一点の慢心も奢りもない。ただ純粋に自らの力を信じている、そういった表情だった。
「残念だったな、お前の道は今日ここで途絶えるよ、ウチのドラギスが立ちはだかるからな!」
ルク先輩は力強く言い放ち後ろを振り返る。
「あ、もじがずてわだずの番でずが? まだルールよぐわがらないんでずけど。それよりおなががへっだのでこのカードって紙食べでいいでずが?」
ど、ドラギスちゃん……




