クエスト39:ミリシャVS未来視ゲヴォルグ・シュタイン③
「シャークフィッシュに竜宮の杖を装備させて攻撃!」
二度目のサイコロの目は5。私はここぞとばかりに手札の中で最も攻撃力の高いシャークフィッシュを場に出し、更に竜宮の杖を装備させゲヴォルグ・シュタインにダイレクトアタックを行う。
シャークフィッシュ【魚族】【攻撃表示】
★★★★
ATK:1500
竜宮の杖ATK:+300
DEF:1200
■大海原を回遊する強力な牙を持つ鮫。陸上では二足歩行で歩く
バシィィン!
攻撃力1800となったシャークフィッシュの攻撃は見事にヒットし相手の残りライフを3200まで減らす事に成功した。
(よし、いい調子!)
「場に一枚カードを伏せてターンエンドです」
牽制も兼ねて現実罠カード脛蹴りを場に伏せ自ターンの終了を宣言。私は自らの戦いぶりに手ごたえを感じて拳を強く握りこむ。
うん……これはもしかしてこのまま行けるかも。相手はサイコロの目で5か6を出さないとモンスターカードを場に出す事ができない。つまりはノーガード状態って事だよね。高火力のモンスターばかりを引いちゃったのか、元々そういうコンセプトのデッキ構成なのかは分からないけど上手くいけばあと2ターンで勝負がつく!
勝ちを意識してか少し気持ちが浮つきホクホク顔になってしまう。そんな私とは対照的に手元に置いてあるサイコロを振る様子もなくナフコフの天井を無気力に見つめるゲヴォルグ・シュタイン。
「……あの、ゲヴォルグさんの番ですよ?」
全く動く気配を見せない対戦相手に少し戸惑いながらもゲームの進行を促す。
「……あぁ、悪い。少し考え事をしていてよぉ」
そう言いながらゲヴォルグ・シュタインは両手を組んで椅子に深々と座り直し淡々と語り出す。
「人って誰でも苦手なものがあるよなぁ。人参が苦手とか虫が苦手とか色々よぉ」
「は、はぁ?」
「それを含めて個性って言われてもよぉ、納得いくものではないよな。本人はすっげぇ悩んでいたりするんだぜ、他人から見ると馬鹿馬鹿しいような事でもよぉ克服したいって思ったりするものなんだぜぇ?」
何を言っているんだろうこの人……
「俺ぁ昔からよぉ、サイコロでいい目を出すのは苦手なんだ。何回振っても何回振ってもいい目が出る事の方が圧倒的に少ねぇ。向いていないんだ根本的に、大好きなこのゲームによぉ」
敗北宣言とも取れるゲヴォルグ・シュタインの弱気な発言、だがその目はまだ光を失ってはいなかった。
「だがよ。だからこそ、だからこそなんだぜ? 俺がこのモンスターヴィーゾフが好きな理由はよぉ。未来が見えても思い通りにいかない、そんな不条理だからこそ面白いんだぜぇ? 未来を信じるってことはよぉ、未来に打ち勝つって事だからよ!」
そう言い放ち、ゲヴォルグ・シュタインは決死の覚悟で賽を振る。
サイコロの目は……1。
「た、ターンエンドだ……」
またしても場に何も出す事ができずうなだれるゲヴォルグ・シュタイン。なんだか可哀想になってきた。
……ううん、気を抜いたら駄目だよ。相手は強い手札を持っているわけだしいつ逆転されるかも分からない、確実にライフを削っていかないと。
気合いを入れ直して私が三度振ったサイコロの目はまたしても5。
(絶好調! 最高の目が続いてるよ、よーしここは……)
シャークフィッシュ【魚族】【攻撃表示】
★★★★
ATK:1500
竜宮の杖ATK:+300
修羅の太刀ATK:+500
DEF:1200
■大海原を回遊する強力な牙を持つ鮫。陸上では二足歩行で歩く
「修羅の太刀も装備してシャークフィッシュの二刀流攻撃。ダイレクトアタックです!」
ズババァァン!
合計攻撃力2300となったシャークフィッシュのダブルアタックが相手にヒットする。これで相手の残りライフは900……行ける!
「くく……」
その時、ゲヴォルグ・シュタインが堪えきれないように声を出して笑う。その笑みは劣勢になった戦況に対する自虐的なものではなく、むしろ勝ち誇ったような余裕さえ感じた。
「どうしたんですか? ゲヴォルグさんの番ですよ」
「いやぁ、すまない。これだからモンスターヴィーゾフはやめられない。本当に運命とは不思議な物だと改めて感じたぜ」
「……?」
「働いていないと休日なんて有難みがないと思わないか? 辛い事があるからこそ楽しい事がより楽しくなると思わないか? 本当に負けるというギリギリの所まで追い込まれた状態で勝利するってえのがよぉ、ゲームの醍醐味だと思わないかぁ?」
覚醒したように大きく目を見開いて自分のカードをドローするゲヴォルグ・シュタイン。
「未来が見えても思い通りにいかないのが面白いと言ったな、あれは嘘だ。最終的にはよぉ、自分が勝つって未来が待っているからこそ絶頂を味わえるってものなんだぜぇ!」
ゲヴォルグ・シュタインはドローしたカードを見もしないままそのまま場に置き宣言する。
「永続魔法『革命』発動!」
革命【永続魔法】
■自分のライフポイントと相手ライフポイントを入れ替える。
「え……!?」
「更に俺の出す目は……ここで! 6だ!!」
力強く空中へ舞い上がったサイコロは誘われるように6の面を表にしてテーブルの上で止まる。
「えっ、えっ!?」
「出て来い! 海王リヴァイアス!」
海王リヴァイアス【水竜族】
★★★★★★
ATK:3300
DEF:2700
■世界の海の守護者と呼ばれる伝説の水竜。海面の水を自由自在に操る海の王。
「えええぇぇ――――!?」
ちょっと待って、さっきの魔法カード『革命』で私のライフポイントは残り900。そして相手の出したカードの攻撃力は3300……私のシャークフィッシュの攻撃力が今2300だから……
「攻撃されたら……私、負けちゃう!?」
「感謝するぜぇお前には。試合中にヤバイってぇ気持ちになったからなぁ、ゲームのヤバイは楽しいって事と同義なんだ。だから感謝と敗北を尊敬の念を込めてお前に贈る事にするぜぇ」
そしてゲヴォルグ・シュタインは粛々と攻撃を宣言する。
(そ、そんな……これで終わり? こんなに呆気なく終わっちゃうの……このデュエルも、ナフコフも……)
「ミリシャさん! それを食らうとマズイです、なんとか避けて下さい!」
後ろからデュエルの様子を見ていたリム様の声がする。
ごめんなさいリム様……せっかくリム様が頑張ってくれたのに、私勝てませんでした……
罪悪感から後ろを振り向く事もできずただ海王リヴァイアスの攻撃が来るのを覚悟を決めて待つ。
「大丈夫だリム。ミリシャは勝つよ」
そんな勝負を諦めてしまった私に先ほどの戦いで惨敗を喫し廃人となったルク先輩の声が聞こえて来る。
(勝つ……この状況で? もう無理ですよ先輩……勝手な事をリム様に吹き込まないで下さい)
「ミリシャ、何をしている。お前が今決める覚悟は冒険者をぶっ飛ばす覚悟だ。それとも尊敬する冒険者様はリムやドラギスやこのナフコフより大事だってのか? 違うよな? だったら見せてやれよお前の実力を」
背中からルク先輩の声が響く。本当に勝手な事を言う人だ、自分はあっさり負けておいて。
……でも、確かにある。私にやれる事!!
「海王リヴァイアスの攻撃だぜぇ。終わりだな」
「……その攻撃に対して罠カードを発動します」
脛蹴り【現実罠】
■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。
「おいおい、それは予想外だぜえ。俺の未来視でも気づかないほどにちゃちな行動だ、ささやかな反抗と言うならやめてもらいたかったなぁ。折角の好勝負に泥を……な、なにぃ!?」
ゲヴォルグ・シュタインが驚くのも無理はない。私が大きく振りかぶった右足からは決意の波動が放たれ金色に輝いていたからだ。冒険者様に対する暴挙、足を向ける行為……散々ルク先輩に注意して来た事をまさに今、私がやろうとしている。
後悔しないか、といえば嘘になる。
それでもこの大会の為に人の体を失ってまで協力してくれたロボニッヒ、恥辱を受けながらも必死に戦ったリム様、口だけはいっちょ前で実力が伴わなかったルク先輩、自らの過ちを清算する為にプレイヤーとして参加しているドラギスちゃん、そしてこのナフコフ受付所のために……
「唸れぇぇぇぇ私の右足!! ひっさぁぁぁつ!! エクスプロージョン脛蹴り!!」
高圧力のエネルギー結晶体となった私の渾身の蹴りがゲヴォルグ・シュタインの脛に向けて放たれる。
「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉ!! ば、馬鹿なぁ!」
テーブルを真っ二つに突き破り直撃した私の右足はそのまま輝く波動の渦となってゲヴォルグ・シュタインを昇竜のごとく巻き上げる。ゲヴォルグ・シュタインはその渦に巻き込まれたままナフコフの天井を突き破りそのまま上空彼方へと消えて行った。
……そして星となった冒険者を遠くに見つめながら私は呟く。
「さようなら……私の憧れ」
○ミリシャ win……




