クエスト37:ミリシャVS未来視ゲヴォルグ・シュタイン
『勝者スノウウェル!』
『うぉぉぉぉ! スノウウェル! スノウウェル!』
観客席から聞こえて来るスノウウェルコール。その歓声を聞かぬように耳を塞ぎながらナフコフの片隅で廃人のようにうずくまるルク先輩。
「普通に負けちゃったよ!」
思わずそう叫ばずにはいられない。
意味ありげに余裕を見せてはいたが実は何の策も無く神のカードの前に惨敗を喫した先輩。スノウウェル少女の言葉を借りるのであれば負け惜しみ……デュエルの最中雄弁に語っていた台詞の全てが負け犬の遠吠えだったという事になる。
(そりゃあ確かにあのカードは反則ですけど……それにしたってカッコ悪すぎですよルク先輩)
そしてこれで1勝2敗。副将である私が負けたらチームナフコフの一回戦負けが確定する所まで追い詰められてしまった。
(もう……私が勝つしかない!)
いよいよドラギスちゃんの、そしてナフコフの命運が私の肩に掛かっている。その重みたるや半端な物ではなく今まで味わった事のないプレッシャーとなって押し寄せてくる。1秒間に3度鼓動を打つ心臓、カラカラに乾く喉、歪む目の前の景色。調子は最低と言ってもいい……それでも戦う時は今。
『おぉぉぉぉ! 来たぞぉぉ! センチュリオンの核弾頭、ゲヴォルグ・シュタイン! 未来を見通す目を持つ男ぉぉぉぉ!!』
私の対面にやって来たのはカードが擦り切れるまで遊び倒した結果、予知能力に匹敵する先見術を手に入れた男……通称『10秒先の未来が見える男』ゲヴォルグ・シュタイン。黒髪をキッチリと7対3で分けているその男は鋭い眼差しで戦場となるテーブルを見つめている。
「見てた~? 勝ったよ~ゲヴォルグ。超らくしょ~」
スノウウェルが跳ねるように椅子から飛び降りてゲヴォルグ・シュタインに駆け寄る。
「スノウウェル。神のカードを使っておいて楽という言い方はないんじゃあないか? 超楽勝って言うのはよぉ、食後に食べたサンドウィッチがあたって腹を下した相手が下痢ピーで危険したとかそおいう時に使うものであってよぉ、今回の戦いに関して超楽という言葉は適していないと俺は判断するぜぇ」
「いいんだよ~そんな細かい事は~。それよりもゲヴォルグもちゃんと勝ってよね。一回戦から大将のクックスターしゃまの手を煩わせる必要なんてないんだから」
「そんな事はよぉ~く分かっているぜ。蟻の行列がどこの巣穴に餌を運べばいいか分かっているのと同じように言われなくても本能で理解しているぜぇ」
なんとも妙な言い回しで受け答えをするゲヴォルグ・シュタイン。
この人が私の相手……なんかセンチュリオンの冒険者って皆変な人だなぁ。
「ミリシャさん。ルクちんはボロ雑巾にされちゃいましたけどミリシャさんは頑張ってくださいね!」
少し怯んでいた私の様子を見てなのかリム様が後ろから声を掛けてくれる。その言葉はなによりも力強く弱気になっていた私の背中を後押ししてくれる。
「はい、リム様。私必ず勝ちます!」
そうだ、相手が誰であろうと負ける事は許されない。それがナフコフに対しての私ができる恩返しだ。
覚悟を決めた私は対面のゲヴォルグ・シュタインに向かって勢いよくお辞儀する。
「ミリシャ・クウェストリスと申します。宜しくお願いします!」
これは私の宣戦布告だ。相手が冒険者様でも絶対に負けないという強い意志。憧れよりも大切なものを守る為に。




