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クエスト34:リムVS世界一位グリオン・トライエル②

「まだまだ貴方のターンは終わりませんよぉぉ! 現実(リアル)罠カード発動!」


 うぅ……私のターンが終わらないよぅ。



ヘアゴムを咥えたままポニテに髪を束ねろ【現実罠】

■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



長袖の裾から手を半分出してキュッと握れ【現実罠】

■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



 凛々しい顔つきで突飛な要求をしてくる小生さん。

 私はブラのホックを外す為に一度脱いだ上着を羽織り直して袖の裾を中指と人差し指でちょこんと摘まむ。


「ぶふ――! 良いでござりまするなぁ」


 小生さんは満足そうに何度も頷くとポケットからヘアゴムを2つ取り出す。そして上体を反らしながら見下ろすように私に指示を出す。


「さあ咥え束ねよ!」


 な、なんなんですかこの人は……



※※※※※



「リム様が……勝つ?」


 ロボニッヒが放った希望の言葉。しかし今の私にはとてもその言葉を素直に受け取れる心の余裕は無かった。


「なんでそんな楽観視しているんですか! 今はもう勝ち負けなんて二の次ですよ。リム様がこんな大勢の人の前で辱めを受けているんですよ!?」


「大丈夫ダ、信じよう。リムは常人よりも遥かに強いメンタルを持っていル。少々の事ではへこたれない筈ダ」


 ロボニッヒのその堂々たる発言に私も少し言葉に詰まってしまう。

 ……う~ん、確かにリム様はちょっとどこか飛んじゃっているところがあるからなぁ。普通の思春期女子なら耐えられないような羞恥でもリム様なら耐え抜いてしまうのかもしれない。


「……そうですよね、リム様を信じないと。それにマニアックな要求をされてはいるものの相手ライフを削っているのはリム様ですし、このままのペースならなんとかなりますよね!」


「アァ、そうだナ。グリオン・トライエルのこのペースなら多分3ターン目には全裸ダ」


「うぉぉぉぉい! ちょっと待てぇぇぇ! 大問題だろそれぇぇぇ!!」


 聞き捨てならない言葉を発したロボニッヒの首根っこを摑まえて乱暴に上下させる。


「ちょ、ちょっト……オイル漏れるからヤメテ!」


「落ちつけミリシャ、ロボニッヒの言い方には少し語弊がある。全裸と言っても最終的には靴下は履かせているはず。グリオンとはそういう男だ」


「ただの変態じゃないですか!」


 もうこうなったら私が強引にでも止めに入ってやる! リム様を救えるのは私しかいないよ!


「おい、ミリシャ。どこに行くつもりだ?」


 ナフコフへ向かおうとする私の腕を掴むルク先輩。そのリム様をないがしろにするような先輩の行動についカッとなって声を荒げる。


「決まっているじゃないですか、リム様を助けに行くんですよ!」


「助ける? 何言ってんだ、もうすぐリムが勝つぜ」


「……せ、先輩まで何を言っているんですか!? こんなのもう勝ち負けじゃないですよ!」


「イヤ、勝ち負けだヨ。リムとグリオン・トライエルが当たった時点で勝敗ハ決していたのサ」


「そうだな、最強無比の強さを誇る奴を殺る為には意識の外からの攻撃……予期せぬ強襲、漆黒の刃、それしか方法がなかったからな」


「……え?」


 どこか余裕を感じる二人の発言は嘘を言っているようには聞えなかった。でも、こんな劣勢の状況からどんな方法で勝つっていうの……


『うぉぉぉぉ!! 今度は場にカードを10枚伏せだぁぁぁ!! グリオンは決める気だ、このターンで早くも勝負を決める気だぞぉぉぉぉ!!』


 観客席から大きな歓声が沸く。

 モニター越しではグリオン・トライエルが欲深い乞食の魔法カードを使って手札を目一杯増やし、その全てを場に伏せた所であった。


(リム様……!)



※※※※※



「さぁ、貴方の番でござりまするよ」


 不気味な表情でニヤリと笑う小生さん。あんなにカードがあったのにまたモンスターカードを出して来なかった……前のターンからおかしいなぁと思ってたけどもう間違いない! 

 この人……引き弱だ!


 よーし! それなら今は大チャンス! 小生さんには悪いですけどここは一気に攻めますよ♪

 え~と、今の私のライフは5000で小生さんのライフは3900か……

 私は手の中に握ったサイコロに念を込める。いい目出ろいい目出ろ~~ほい! テーブルの上をコロコロと転がったサイコロが出した目は1。

 

「うぅ~最悪です……ごめんなさいエルボーカンガルちゃん」


 私は泣く泣く星3つの愛戦士エルボーカンガルちゃんを自らの手で破り捨てる。それに今の私の手札に星1のカードなんて無いよぅ……


「う~ん……じゃあこれ出しときますね」



波乗りブンチョウ【鳥族】

★★

ATK:800

DEF:500

■真夏に出現する黒焼けのブンチョウ。大きな波を追いかけて海を巡る粋な鳥。



「波乗りブンチョウを守備表示で……」


「残念! 現実罠カード発動です!」


 待っていましたとばかりに小生さんが伏せカードをひっくり返す。


「えぇ~! 守備でもですかぁ!?」


「小生の罠カードは攻めても守っても逃れる事ができぬ究極の戦術。甘いでござりまするぞ。それに……守備などで難を逃れようなどと悪い子にはちとキツイお仕置きが待っておりまするぞ」


 今まで以上に悦な表情を見せ、舐めまわすような視線をこちらに送り込んで来た小生さんは、一呼吸置いた後烈火のごとくカードを裏返して行く。


「ぶふ――! では参りますぞ!」



ブラの右肩紐を外せ【現実罠】

■守備を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「更に!」



ブラの左肩紐を外せ【現実罠】

■守備を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「更に更にぃぃぃ!」



シャツの第二ボタンまで外せ【現実罠】

■守備を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「ははは――――! まだ終わりではありませんぞぉぉぉ!!」



パンツを裏返しに履け【現実罠】

■守備を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「えぇぇ~! それは無理ですよぉ!」


「いけない! いけない子ですねぇ貴方は! ルールはルール、従ってもらわないと困ります! ゲームの世界において絶対があるとすればそれは規律! 神であろうとルールという咎に抗う事はできないのです!」


『おぉぉぉぉぉぉ! 良く言ったぞぉ。お前は最高だぁグリオン! グ・リ・オ・ン! グ・リ・オ・ン! グ・リ・オ・ン! グ・リ・オ・ン!』


「聞こえますか? この外から聞こえるグリオンコール。これこそが正義の証! さぁ脱ぐのです! さぁ、さぁ!」


「うぅ~……」


「さぁ! さぁ! さぁ! さぁ!!」


 どんどん小生さんのテカテカした丸っこい顔が迫って来る。だ、駄目だ、やっぱりこの人なんか怖いよぅ! 嫌だ。助けて、助けて、ポチィィィ!!

 私は恐怖のあまり思わず目を閉じる。



 ……あれ? 

 先程まで近くに感じていた脂っこい威圧感がいつの間にか消えている。恐る恐る目を開けるとそこに小生さんの姿はなかった。

 まさか本当に天国のポチが助けてくれたの?


 ポチの姿を探してきょろきょろと辺りを見渡す。するとそこには複数の警備団に囲まれて正座している小生さんの姿があった。


「ち、違うんです。これはカードの効果で、決してやましい気持ちがあって迫っていたわけではないのでござりまして……」


「はいはい、じゃあ続きは署で聞こうか」


「馬鹿な! 小生は無実だ! 周りをみれば分かるだろう? 今はカード大会の最中なんだ、小生達はルールに則って真剣に競技をしているだけだ! そうだろう会場の皆!」


 虚しく響く小生さんの声、誰も小生さんと目を合わそうとせず淡々と自分のデュエルに集中している。


「か、観客席の皆ぁ!! こいつ等になんとか言ってやってくれ!」


 今度はナフコフの外へ向かって大声で叫ぶ小生さん。しかし先ほどまでとはうって変わって静まりかえる観客席からは何の返答もない。

 その現実に愕然とした表情から一転、焼かれた子豚みたいにみるみる内に顔を赤くする小生さん。


「ぐ、ぐぐ……だ、誰だぁ!! 通報しやがったのは! 卑怯だぞぉぉぉ! 正々堂々勝負しろぉぉぉ!!」


 子供のように駄々をこねてその場で喚きだす小生さん。しばらく暴れまわっていたが、その行動が無意味であると悟ったかのように急に大人しくなった彼の目からは涙が溢れ出る。


「小生さん……」


 こんな姿を見たらなんだか可哀想になってしまいます……

 そんな私の気持ちと同じなのか警備団の男性の一人が小生さんに優しく声を掛ける。


「さ、もう行こうか。まだ若いんだ、人生やり直せるさ。親御さんにはこっちから連絡しとくから」


「うぅ……親だけは、親だけは勘弁してください……」


 こうして小生さんは警備団の皆さんに肩を支えられながら会場を後にするのでした。



○リム win……


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