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クエスト33:リムVS世界一位グリオン・トライエル

「ロボニッヒ、お疲れ様」


 先鋒戦が終わり精根尽き果て疲れ切った表情で選手待機所へと戻って来たロボニッヒにルク先輩が雑巾を手渡す。


「すまないナ……勝つことができなかったヨ。大事な先鋒戦だと言うのニ、情けない話ダ」


 渡された雑巾で体からにじみ出たオイルを丁寧に拭き取りながら申し訳なさそうに呟く。その哀愁漂う姿からはこの一戦に賭けていた思いが伝わってくるようだった。


「し、仕方ないですよ、勝負は時の運って言いますし。それに勝つ為に思い切った作戦をとった結果の2ターンキルなんですから実際は紙一重だったと思いますよ、うん!」


 本音を言えば経験者であるロボニッヒの敗戦は大きな一敗だ。でもナフコフの為に頑張ってくれたロボニッヒには感謝こそすれ責める理由があるはずもなく、私はロボニッヒが落ち込まないようにと努めて明るく振る舞う。

 

「イヤ、気ヲ使ってくれなくてモ構わないよミリシャ嬢。それに私はプレイヤーとしテ敗北こそしたが魂はあの場所に置いて来タ。きっと愛弟子であルあの子がその意思を継いでくれるダロウ」


 次鋒であるリム様に想いを継承するかのようにモニターを見つめるロボニッヒ。先ほどまで熱戦を繰り広げていたテーブルの上にはU字型の右手首が無造作に置かれていた。


(怖すぎるよ! なんで手首置いて来てるんだよ!)



「ところでルク先輩。次のリム様の相手なんですけど……」


「あぁ、リムの相手はモンスターヴィーゾフ世界プレイヤーランキング一位『現実(リアル)罠カードマスター』グリオン・トライエルだな」


「世界一位、それってこのカードゲームで今一番強いのがこのグリオン・トライエルさんって事ですよね。さっき少しお話をしたギルドマスターのクックスターさんよりも……」


「そうだな。このカードゲームに関して奴の右に並ぶ者はいないだろう。そして強さだけでなく恐らく人気も……」


 そこまで先輩が言い掛けたところで観客席から地響きのような大歓声がする。


『おおおぉぉぉぉぉ! 待っていたぞぉぉぉぉぉ! グリオン・トライエルぅぅぅぅ!! 今日もお前の最強無比のテクニックを見せてくれぇぇぇぇ!!』


 モニターに映っているのはフレームが歪んだ眼鏡をかけた小太りの男性。目の下にはくま、頬にはそばかす、着ている無地のシャツは洗濯した様子もなく所々黄ばんでおり、そのいでたちからはとても名を馳せた冒険者の風格は感じられない。


「あれがグリオン・トライエル……ですか? なんだかそんなに強く無さそうな……」


 拍子抜けしてしまった私は率直な感想を口にする。


「相手の実力を見た目で判断するなといういい例だ。奴の去年の勝率は100%、負け無しだ。そればかりか奴と戦ったプレイヤーはその後モンスターヴィーゾフのカードゲームから引退を余儀なくされている、驚異のプレイヤークラッシャーでもあるんだよ」


「そ、そんなリム様……」



※※※※※



「あ、ちょっとそれ以上は近寄らないでもらえますかね」


 テーブルの上にあったU字型のガラクタをゴミ箱に捨てながら目の前の人とも豚とも判断ができない生き物に注意を促す。


「ロリ美少女ロリ美少女……ぶふ――血がたぎるでござりまするよぉ」


「……あ、そっか。えーと、ブヒブーヒブヒブヒ―」


「小生はグリオン・トライエル。今日というこの日に感謝感激」


 う~ん、おかしいなぁ。豚語で話しても言葉が通じないです。

 

 ひとまず奇妙な生物との対話は諦めて席へと座る。

 ……ドラちゃん、見ていてね。私ドラちゃんの為に頑張るよ。あと天国にいるおじいちゃんとおばあちゃん、リムは元気です。それに二年前死んじゃったポチ、ポチの事は一生忘れないよ。



「……ポチ」


「ふぁ? なに泣いているでございまするか?」


「すいません。つい思い出し泣きを……」


「このタイミングでですか……泣きを見るのはこれからでござりまするから故、涙は取っておいた方がいいでずぞ」


「あ、はい」


「それではいざ! モンスタァヴィーゾォォォフテイクオ―――フゥゥ!」


 小生さんが奇声と共に放り投げたサイコロはコロコロと転がって4の目が現れる。


「4ですか~結構いい目が出ましたね~」


「ぶふ――! 小生に賽の目など関係ないでござりまする。まずはこの魔法カードを使わせていただくでござりまするよ!」



欲深い乞食【魔法】

■サイコロの目を-1減少するのと引き換えにデッキから2枚カードを追加する事ができる。



「魔法カード?」


「これにより小生は二枚カードを追加ドロー、更に!」



欲深い乞食【魔法】

■サイコロの目を-1減少するのと引き換えにデッキから2枚カードを追加する事ができる。



欲深い乞食【魔法】

■サイコロの目を-1減少するのと引き換えにデッキから2枚カードを追加する事ができる。



「ぶふ――! これにより更に4枚のカードをドロー! そして場に8枚の伏せカードを置いてターンエンドです」


「ほえ? モンスターカードは出さないんですかぁ?」


「残念ながら小生の手札にはモンスターカードが一枚もないのでござりまする」


「ほんとに? ラッキー♪」


 よぉし、私のターンだね。いい目出ろいい目出ろ~~ほい!

 テーブルの上を勢いよく転がったサイコロで出た目は3。うん、まずまずかな~。


「じゃあ私はこのカードで勝負~!」



エルボーカンガル【獣族】

★★★

ATK:1100

DEF:800

■高原を飛び回るカンガルー。お腹の子を守る為に放つエルボーは岩をも砕く威力を持つ。



「よ~し、攻撃~!」


 その時、小生さんの口元が少し緩んだ気がしました。


「残念、現実罠カード発動です」



靴下を脱げ【現実罠】

■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「へ?」


 エルボーカンガルの攻撃はしっかりと小生さんのライフポイントを削っている。それなのに全然気にすることなく小生さんは私に靴下を脱げという、世界って不思議だ。


「あ、はい。分かりました」


 私はカードの指示通り靴下を脱ぎ靴の上へと置く。


「これでいいんですかぁ?」


「はい、いいでしょう」


「じゃあ次は小生さんの番……」


「更に現実罠カード発動!」


「えぇ~!? またですかぁ!?」



服の上からブラのホックを外せ【現実罠】

■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「ブラのホックを服の上からですか~。う~ん難しい事言いますね。できるかなぁ……」


 背面に手を伸ばしてぎこちない手つきでホックを外しに掛かる。

 む、難しい……


「ちょっと上着脱いでもいいですかね?」


 私が小生さんに許可を得ようとその言葉を発した瞬間、ナフコフの外から大きな歓声が響いて来る。


(観客席の方から? なにかあったのかな?)


 プチ……


「ふう、終わりました」


 試行錯誤しながらもなんとか服の上からホックを外す事に成功し安堵する。でも小生さん、あんまりいいカードが引けなかったみたいだなぁ~こんな罠カードしかないなんて。


「いいでしょう……では更に現実罠カード発動!!」


「えぇ――――! もう勘弁してくださいよぉ~!」



ブルマーを履け【現実罠】

■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「更に更にぃぃ~!!」



履いたブルマーを膝下までおろせ【現実罠】

■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。



「え……」



※※※※※



『おぉぉぉぉぉ! 流石俺たちのグリオン!! 本当にお前は分かっているぜぇぇぇぇぇ!!』


 狂喜乱舞の観客席。拳を天に突き上げた男たちからの惜しみない賞賛の声は耳をつく大歓声となって辺り一帯を覆い尽くす。


「な、なんなんですかコレ! セクハラですよこんなの!!」


 尋常ではない戦法に怒り心頭の私はルク先輩に食ってかかる。


「落ち着けミリシャ」


「これが落ち着いていられますか! リム様がこんな晒し者みたいにされているんですよ!」


「だがれっきとしたカード効果だ。ルールにのっとった戦術だ」


「で、でも」


「恐ろしイ男ダ、グリオン・トライエル。奴の扱う現実罠は一般人では手を出す事ができない程の高値デ取引されているウルトラレアカード。そして並みのデュエリストなラ仮に持っていても使う事をはばかってしまウようなカードだ。それを惜しみもなク、淡々と発動するその姿はまさニ鬼神」


「対戦相手はライフポイントを削り切る前に心を削られ試合を放棄してしまう、か。世界一位は伊達じゃないな」


「何を二人して感心しているんですか! このままじゃあリム様が、リム様が……」


 怒りと動揺からその場で頭を抱えてしまう。そんな私の肩を優しく叩いたのは他ならぬリム様のカードの師匠、ロボニッヒだった。


「大丈夫ダ、リムは勝つヨ」



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