クエスト27:リアル罠カード
サイコロの目で2を出してしまった私は泣く泣く星4つのシャークフィッシュを取り除く。
う~ん、どうしよう……今回のターンで手元に引き寄せたカードは2枚目のヒツジヤギのカード。手持ちで出せるのは星1の攻撃力が低いカードだけでルク先輩が【守備表示】で出しているクロガネブタの守備力600を上回るカードはない。
(あ、でもこのカードを使えばいいのか)
手札の中にあるカード、タペタの名弓・セイレィンに目をやる。このカードは攻撃力を+400増やしてくれる装備カード。これをヒツジヤギに装備させれば合計攻撃力700で相手の守備力を上回る事ができる。
(よーし、ここは攻めるぞぉ)
「私のカードはこれです!」
場にヒツジヤギを【攻撃表示】で出し、追加で装備カード、タペタの名弓・セイレィンを重ねる。
ヒツジヤギ【草食獣】【攻撃表示】
★
ATK:300
タペタの名弓・セイレィンATK:+400
DEF:200
■牧草地を徘徊する草食の獣。近づくと甘噛みしてくる。
「ヒツジヤギで相手を攻撃します、セイレィンアロー!」
これでクロガネブタを倒してルク先輩のライフに100のダメージを与える事ができるはず、先手は貰いましたよ先輩!
しかし先輩は私の攻撃宣言と同時に口元を緩ませ笑う。
「掛かったな。リアル罠カード発動!」
そう宣言してルク先輩は自分の場に伏せてあったカードをひっくり返す。
その瞬間、私の右脚に痛みが走る。
「痛っ!」
それはとても地味な痛みだった。何故かカードゲームの最中に脛の辺りに走った不可解なダメージ。
「痛~なんなのもう」
顔をしかめる私に対面のルク先輩は微笑を浮かべる。
「ふふ、効果は抜群のようだな」
「はい?」
得意気に語るルク先輩に対して脛をさすりながら聞き直す。
「お前の脛に走った痛みの正体、それはこれさ」
ルク先輩が指したのは先ほどひっくり返した自軍のカード。
脛蹴り【現実罠】
■攻撃を宣言した相手プレイヤーに対して発動する。
「……えーと、なんですかこれ?」
「なにって現実罠カードだよ」
涼しい顔でサラリと答える先輩。
「私の脛の痛みって先輩が蹴ったんですか!?」
「当たり前だろ、罠が発動したんだから」
「だからなんでカードゲームなのにリアルで攻撃してくるんですか!」
痛みの正体を把握した私は怒りも相まって先輩ににじり寄る。
「だ、か、ら、現実罠カードだからだよ。このモンスターヴィーゾフには二つの罠カードがあるんだよ。一つは通常罠、そしてもう一つが現実罠カードだ。現実罠カードはリアルに相手を攻撃する事ができる特殊罠カードだな」
なんだそのカード!?
「相手のリアルライフを0にする事で勝利できるのもモンスターヴィーゾフの特徴の一つだな」
「なんなんですかその特殊ルール!」
「オフィシャルのルールだよ。そもそもが冒険者御用達のカードゲームだぜ? 年間で重軽傷者が1万人を超えるからなモンスターヴィーゾフは。まさに命懸けのゲームだよ」
物騒すぎる……
「あと現実罠は相手モンスターの攻撃を無効化するような効果はないからお前の攻撃は通ってるよ」
ルク先輩はそう言ってクロガネブタを場から取り除く。
「さて、次は俺のターンだな――――」
――――その後も大会に向けて情け容赦ない猛特訓は続いた。体がボロボロになりながら(主に現実罠のせいで)も特訓を乗り切った私は確かな自信を胸にモンスターヴィーゾフのクナシャス大会当日の朝を迎えるのだった。




