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クエスト19:変わらぬ日常の価値

「フレミア、じゃあこれ今週の回覧板だから。きちんと見ておいてね」


 私はいつもと同じように回覧板をララジェル受付所に持って来る。エルナイト様と出会ってから10日が過ぎ、まるであの日の事が幻であったかのように何変わらぬ日常が続いていた。

 一次は閉店の危機にあったララジェル受付所だが今も店を閉めることなく営業を行っており、今後もひとまずは受付所を続けて行く予定だそうだ。継続のきっかけとなったのはやはりエルナイト様が来た日。あの日以来数が多いとは言えないが少しずつクエストを受注しに来る冒険者が増えたからだ。


(もしかしてエルナイト様が口コミで……?)


 いつもよりも少しだけ賑わうララジェル受付所を見ながらそんな事を思う。


「ありがと……でもなんで……鉄製の回覧板……なの?」


「紙だとフレミアが焼いちゃうから私が内容を彫ってきたの」


「ミリシャって……馬鹿だよね」


「何をぉ!?」


 心なしかフレミアも普段より元気な気がする。あまり表情を変える子ではないので分かりにくいが大事にしてきた受付所がとりあえずは継続の方向で落ち着いたのだ、嬉しくないはずがない。


「……良かったねフレミア。また一緒にお仕事頑張ろうね」


 私はフレミアの髪をくしゃりと握りって微笑む。


「うん……そうだね……ミリシャは大変だと思う……けど……頑張って」


「え? う、うん。ナフコフ受付所も負けないように頑張るよ」


 珍しいなぁ、フレミアがナフコフの事気にするなんて……ん?

 その時ふと受付所のカウンターに飾ってある賞状が目に入る。綺麗な額縁に入ったその賞状はどうやら何かの表彰状のようだった。


「フレミア、あんなの飾ってあったっけ?」


「うん……10日くらい……前から」


「ふ~ん、そうなんだ。何の表彰状なの?」


「おじいちゃんが……有志の自警団にも入っていて……10日前……不審者を……捕まえたから……それで」


「へぇ~そうなんだ。フレミアのおじいちゃんって昔は冒険者だったんだもんね、凄いなぁ」


「その人達……今も牢獄に……ぶち込まれている……から」


「最近物騒だもんね~仕方ないよ。それで? 不審者ってどんな人だったの?」


「白い服を……血のように真っ赤に染めた……紙袋を被った……変質者」


「へ~……え?」

 

 って、おおぉぉぉぉい! エルナイト様牢獄にぶち込まれちゃってるよ!!


「犯人は……これは果汁だ……ルーンヌィを呼んでくれ……などと訳の分からない供述を繰り返しており……」


 だからそれエルナイト様だよ! あんたのおじいちゃんとんでもない人を捕縛しちゃってるよ! 私のせい!? 私のせいなのぉぉぉ!?


「お蔭で冒険者……増えた……変質者……万歳」


 そう言って控えめに両手を上げるフレミア。

 っていうかフレミア、あなたもその人と会って喋ってるよね!? 気付けよ!


「それよりミリシャ……お店……大丈夫」


「あ、うん。戻るよ……はぁ~」


 自然と深いため息が零れる。結果としてララジェル受付所の危機が去ったといっても、これでは罪悪感に圧し潰されそうだ。


「一人で大変だと……思うけど……ふぁいと」


 今度は胸のあたりで両拳を握ってエールを送って来るフレミア。


「ありがとう。……あれ? 私今日お店に一人って言ったっけ?」


「言って……ないよ」


「……だよね? でもそうなの、最近ルク先輩が勝手に休んでてさ~。まあ別に冒険者の方が来るわけじゃないから全然一人でも平気なんだけどね」


「そっか……でも大丈夫……もうすぐ釈放だから」


 フレミアは表彰状を指さしながら呟く。

 表彰状には『ドンキス・ララジェル殿 貴殿は変質者一名と冒険者を狙う不審者二名を捕縛しクナシャスの平和を担った事をここに表する』と書いてあった。


「ルク先輩達も捕まってるぅぅ!?」


 どうりで来ないはずだよ!


「け、結果的にウチの主任がお役に立てたようでなによりだよ」


 私は顔をひきつらせながら答える。

 まあ……あの二人は自業自得だからなぁ……


「じゃあ、ルク先輩失踪の謎も解けた事だし私は帰るね」


「あ……待って……」


 ララジェル受付所を去ろうとする私を呼びとめてフレミアは庭へと駆けだす。そしてすぐ戻って来ると笑顔で私の髪に花を添える。


「フレミア、これは?」


「ミリシャ……今回の事……ありがとう」


 フレミアは私に対して丁寧に頭を下げる。


「わ、私は結局なにもできてないから、フレミアのおじいちゃんのお手柄じゃん」


「ううん……頑張ろうって……思えたから」


 そう言って笑うフレミアの顔は少し赤らんでおり、端正な顔立ちに年相応の幼さが加わりクナシャス一番の美人に見えた。


(笑うと本当に可愛いんだよなぁこの子……でも今はそんな事より……)


 私は自分の頭から漂う腐臭に鼻をつまみ耐えかねて大声をあげる。


「フレミア、これラフレシアだから!」



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