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クエスト1:クエスト受付所『ナフコフ』

 ここは冒険者が集う町クナシャス。初級者も上級者も別け隔てなく立ち寄る憩いの町。


 天気は快晴、私ミリシャは今日からこの町のクエスト受付所で働くことになりました。

 緊張と興奮で自分の心臓の音がドキドキと聞こえて落ち着かない。粗相がないようにと途中で立ち寄ったパン屋のガラス越しに何度も自分の姿をチェックする。肩下まで伸びた親譲りの赤髪はお気に入りの髪留めで後ろに纏め、前髪は眉に掛からない程度に揃えてある。童顔で子供っぽく見られる為、白を基調とした少し大人っぽい服も新調した。今日という日は私にとってとても特別な日だからだ。

 冒険者のお手伝いをしたい……私の昔からの夢。その第一歩となるお仕事の初出勤の日なのだから。


「見ていてね……お母さん」


 求人倍率が高いこの仕事に18歳で就くことできたのは母の助力があってこそだった。

 小さい頃に父を亡くし女手ひとつで何不自由なく私を育ててくれた母。本当は村に残って母を近くで世話するのが親孝行なのかもしれない。しかし母は私の夢を笑って後押してくれた。誇り高い仕事だからと、冒険者の助けになってあげなさいと、笑顔で私を送りだしてくれたのだ。その気持ちに応えるためにも私は一生懸命働くんだ。



 そして二年の時が流れた――――



「ふぁ〜あぁミリシャ、コーヒー淹れて」


「……」


「おいミリシャ、コーヒー。ん? お前なに震えてんの?」


「そりゃあ震えますよ! 何もしないまま二年の時が経っちゃいましたよ!」


 私は整理していた書類を握りしめ、溜まった鬱憤を爆発させるように大声をあげる。

 埃っぽい受付カウンター、使われる事のない来客用の椅子と机、放っておくとすぐに蜘蛛の巣ができてしまう寂れた木造の建物。あの期待に胸をふくらませ、夢と希望に満ちた頃の私は何処へやら。クナシャスにやって来てから二年……閑散とした受付所に虚しく声だけが響く。


「え、何もってまさか……息も?」


「息はしてます! なにくだらない事言っているんですか!」


「なんだ、ラフレシア属のお前がついに光合成を覚えたのかと感心したのに」


「誰がラフレシア属ですか! 人を寄生植物みたいに言わないで下さい」


 自然の植物が光合成で酸素を生み出すように、私の目の前であくびをしながら自然に話の腰を折ってくる銀髪猫目の男性。この人はクエスト受付所『ナフコフ』の主任、七つ年上のルク先輩。実にやる気のない私の上司である。


「それより小刻みに震えて急に大きな声を出したりして、もしかしてミリシャの群れでも呼んでるのか?」


「なんですかミリシャの群れって、私自身が野生種族の名前みたいになっているじゃないですか!」


「分かったから落ちつけって、何か納得のいかない事でもあるのか? 頼れる先輩に1000ルーブで話してみろよ」

 

 有料!?

 真面目に聞く気がないルク先輩に痺れを切らした私は財布の中から1000ルーブを取り出し机の上に叩きつける。


「じゃあこれで聞いて貰えますよね!」


「いや、冗談だって。そんな怖い顔するなよ」


 先輩が若干怯んだ隙を逃さず畳みかけるように言葉を続ける。


「だってルク先輩、私がこのクエスト受付所に来てから今までで冒険者の方が何人来たと思います?」


「1000人くらい?」


「3人です! 先輩もここでずっと働いているんですから知ってるでしょ!」


 あまりに現実と乖離した数を危機感無く答える先輩に対してついつい声を荒げる。


「あら、そうか。ここに来るまでのフンコロガシの数もカウントしてたわ」


「カウントしないでください冒険者に失礼です」


「で? コーヒーは?」


「私の話を聞いて下さいよ!」


「よし来年の今日、ここで会おう。その時に聞くよ」


「今聞け! そもそもルク先輩は明日も明後日も仕事だからここに来るでしょ!」


 私はここぞとばかりに二年間溜まった思いを吐き出す。


「二年間で3人なんて異常ですよ? この町の冒険者の数は来訪者も含めると年間2万人もいるのにです!」


「ま、最近大手チェーンのクエスト受付所がこの町にも参入してきたからなーそんなもんじゃね?」


「なにを客観視しているんですか、単純に冒険者が一人一回しかクエストを受けに来なかったとして0.015%ですよ!? ルク先輩はなんでこのクエスト受付所には人が来ないか考えた事ありますか?」


「ミリシャの淹れるコーヒーが不味いから?」


「違います」


「でも不味いコーヒーの味って結構クセになるんだよな」


「なんのフォローを入れているんですか、私のコーヒーのせいじゃありませんよ!」


 いつものように適当なルク先輩に私のボルテージはどんどん上がって行く。


「クナシャスはこの大陸一の数のクエスト受付所がひしめく激戦区、口を開けて待っていても冒険者なんてやって来ないですよ!」


「なるほど、口を開けて二年間を棒に振った奴の言う事には説得力があるな」


「ぐっ……ま、まあいいです。とにかく私は日夜汗水をたらして危険なモンスターと戦ってくれている冒険者のお手伝いがしたいんです。それが私の夢なんです! それなのにウチの受注クエストときたらロクでもないものばかりじゃないですか」


「失敬な、俺が取ってきたクエストのどこがロクでもないんだ」


「ルク先輩が今月取ってきたクエストって『フンコロガシのフンを丸めるお仕事』だけじゃないですか、しかも報酬がフンコロガシのフンって、もう訳が分からないですよ!」


「ミリシャ、奴らを侮るな。報酬の為ならフンくらい素手で丸めるぞ? 冒険者なんて自分の武器を作る為なら色違いのモンスターを何百時間と狩り続けるド級のマゾだからな」


「ぼ、冒険者を馬鹿にするなぁ!」


 尊敬する冒険者を馬鹿にされた私はルク先輩に食って掛かる。


「まあまあ落ち着けって、自分ではクエストも取って来られないのに声だけ大きいミリシャさん」


「ぐ……わ、私だって自分でクエストを取って来たいですよ。でも実務経験三年以上ないと一人ではクエスト登録申請できないですし……」


 痛い所をつかれた私はごにょごにょと歯切れの悪い言葉を口にする。


「そういう事だ。そしてクエスト登録検定はウチでは俺とお前しか取得していない、つまり来年までここのクエストの内容は俺の気分次第という事だ」


「う……」


「俺は別に明日からここのクエストをバナナオレ作成依頼で埋め尽くしてもいいんだぞ?」


「そんなこと冒険者がするわけないじゃないですか!」


「いや生肉を美味しくせよ、とか普通にやるよ冒険者は。馬鹿だから」


「ぼ、冒険者をストレートに馬鹿と言うなぁ!」


「つまりだ。俺が言いたいのは……クエスト取ってきて欲しかったらさっさとコーヒー淹れて来い」


「う……う……ちくしよー覚えてろぉー!」


 私は顔を真っ赤にしながら隅にある台所へと駆けだす。

 あと一年実務経験を積んでから……なんて悠長な事は言っていられない。私がこのクエスト受付所、ナフコフを立て直すんだ! 


――――――――――――――――――――


 名前=ミリシャ・クウェストリス

 性別=女


 ≪技術(スキル)

 クエスト登録検定【白銀(プラータ)


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