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「へーえ、こいつは思わぬ掘り出し物だな」
レイジのR34GTーRを見て、この車を盗むのを手伝った黒い上下の制服に身を包んだ男は呟いた。
狙っていた最後の1台に匹敵する位に、いやもしかしたらそれ以上の価値が付いてもおかしくない様な車が今の自分達の手元にある。
「このパーツもこのパーツも……うお、こんなのまで組み込んでるじゃねーかっ!?」
「パーツごとバラして売るよりも纏めて売った方が良さそうな値段付くんじゃないですかねー、これはさ?」
数々のパーツに対して目を輝かせる躍人の横で、このR34GTーRを運転して来た如月が誰に問いかけるとも無くそう呟いた。
しかしその呟きを耳にした真理がタブレットを取り出し、海外へと流すルートの相場を色々とデータを駆使して短時間で調べ上げてしまった。
「アラブかドバイ辺りなら石油関係で……」
「ああそっか、そっちならかなり高く売れる筈ね」
黙り込んでしまった真理の言葉の続きを担当するかの様に、さくらがポンッと手を打って納得した様子を見せる。
「ああ。それもこいつは車検証を見る限りではVスペックⅡ……純正でハイパフォーマンスなパーツがついているからな。距離は20万キロ以上走っているみたいだが、そんなのはあの石油バブリーな奴等には関係無いっしょ。あいつ等は自分の「オモチャ」を手に入れるなら例え5000万円だって金出すっしょ、セオリー的によ」
裏社会に存在するその手のカーマニアは、自分の気に入った車であれば例えそれが盗難車であろうとも、大金を出してまで欲しいと思うものだとは如月の弁である。
事実アメリカでも、気に入った車を盗ませたバイヤーから高値で買い取って飽きたらまた転売したり、池に落として証拠が残らない様に乗り捨てたりする事例がある。
盗難車なら「原価」はタダ。それこそ「安く仕入れて高く売る」商売の基本を徹底しているとも言えるだろうと如月は笑う。
「だけどやっぱ輸出先は中東とかアフリカだよ。この前ハイエース10台売ったらすげー金になったしな、アフリカはよ」
「中東だったら高級車を欲しがる人間が多いわね。ムルシエラゴとかそれこそヴァンキッシュとか。後はポルシェ……と言うよりもルーフやゲンバラのチューニングカーとかの方が高く売れたりね」
「アメリカはカローラとかアコードとか……セダンタイプが需要としては多いわ」
躍人もさくらも真理も、このアメリカ国内に飽き足らず色々な場所で自動車窃盗を働いて来た。
データ収集であればさくらが大学生の表の顔を活かして、学生が集まるサーキットの走行会に出向いたり車関係のイベントでキャンギャル等のアルバイトをしたりして車のオーナーやユーザーの情報を集める。
真理も真理で有名人のスタイリストをしているので、自然と有名人が高級車を駐車場に停める事が多い事からその有名人のナンバープレートを仕事の行き帰りに把握したり、有名人の自宅の情報も有名人の財布の免許証から手に入れたりする等、車の場所の見当を付けるのは容易かった。
また、アメリカでは車そのものよりも「車のパーツ」の方が人気が高い。
盗まれた車を解体する「チョップショップ」と言う業者があり、そこで車を解体してパーツ単体で売り捌いた方が儲かる場合もある。
躍人はカー用品の会社、それも本社に勤めているのでそうしたパーツ関係の事は非常に詳しく、日頃から会社の研修で車のパーツの需要だったり構造だったりを勉強しているが故に車の解体に関してはお手の物。
この4人が所属している組織にはそうした解体専門の下請け業者が存在しているので、基本的にはそっちに任せる事にしているのだがどうしても急ぎで……と言う場合には如月にも手伝って貰って、盗んでから余り時間を置かずに別の近場でササっと解体してしまう事もある。
盗んだ車をそのまま丸ごと転売するのはレアなケースである。
普通はまず車を盗み、足が付かない様にパーツごとに解体してから船に乗せたりトラックで港まで運んだりするのがお約束だ。
例えば盗んだ車をアフリカに輸出するなら、まずは船でドバイ等の中東に運んでからその中東で組み立て、そしてアフリカに再度輸出する。
車そのもので運ぶとなると場所もコストも必要になるし、それから解体する時間も移動する時間にプラスされてしまう。
それにアメリカでは車のパーツそのものに需要があるので、パーツだけをアメリカに輸出して車体本体はアフリカに輸出し、向こうで廃車になってしまった車から部品取りでパーツを移植してまた走らせる事も出来る。
国ごとに車の需要の種類が違うが、アメリカ車は余り需要が高くない。
盗まれるとすればインパラや、ダッジ、シボレー、フォード3社のフルサイズピックアップだろう。
普段の生活で扱いやすい車に需要が集中していると言える。
しかしやはり、真理の言っていた通りアメリカでも人気が高い盗難車は日本車。
安全で耐久性もあり、なおかつ安い。
つまり盗難のターゲットになりやすいし、2015年のデータでもアコード1位のシビックが2位で5位にトヨタのカムリ、と言うデータがある。
それに則ってこの4人もそうした車をターゲットにしているが、それ以外の車も盗んでおく事で次の盗まれそうな車に目を向けさせない様に心掛けてもいる。




