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茶髪の女をさくらと呼ぶ真理。
そしてさくらと呼ばれた女は、アゴに手を当てて少しの間考え込む。
「あの山の上の駐車場の前の話よね……。その前は20番アベニューの立体駐車場に置いてあったヴァンキッシュを盗み出したばかりだったけど、あの駐車場の監視カメラは事前に全て妨害電波のブリーフケースで無効にした筈だったから大丈夫の筈よ。そのヴァンキッシュの衛星システムを解除してからその車を港に届けて、そして真理ちゃんに乗せて貰って今日の最終的な獲物を盗みに行く為にあの山の上で一旦集合するまでは、ミスらしいミスは私も無かったと思うわよ」
「なら、何であの刑事は真理とさくらを尾行して来たんだよ。それがおかしいっつってんだよ!!」
首を横に振ってミスを否定するさくらに対しても声を荒げる躍人だが、気の強い性格のさくらも負けてはいない。
「そう言われても、こっちだって分かんないものは分かんないわよ!」
「分かんなかったら尾行される訳ねーだろ!! どっかでミスをしたからこうやって俺等がまずくなってんじゃねーかよ。違うのかよ、おお!?」
大声で言い争う2人に対して、割って入ったのは今までそのやり取りを黙って見ていたメガネの男だった。
「止めないか、2人とも!! 今は言い争っている場合じゃ無いだろう!! さくらも躍人さんも感情的にならずに、今はさっさとこの街から出る事を優先させるべきです! 違いますか!?」
そのメガネの男のセリフに、冷めたのか白けたのかあるいはどっちもなのか分からないが躍人とさくらは言い争うのをストップする。
「躍人さんの言う通りに迎えは呼んだわよ」
スマートフォンを掲げつつ真理がそう言い、後は迎えが来るまでここで待機する事にした。
下手に動くと警察に見つかってしまう可能性が高い。
と、ここで躍人がメガネの男に声を掛ける。
「そう言えば如月、こいつの86は捕捉されて無いか?」
躍人が如月と呼んだのはメガネの男。
それから「こいつの86」とはあの駐車場で合流したさくらの青いトヨタ86の事だった。
もしあの刑事が真理のロードスターを捕捉していたら厄介だと言う事でロードスターの内臓システムを表示しているディスプレイを調べた所、やはり捕捉されてしまっていた。
組織が開発した独自のプログラムをこの4人はそれぞれの車に取り付けており、もし今回の真理のロードスターの様に捕捉されている場合にはディスプレイにその履歴がしっかりと残るシステムになっている。
それに気が付いた躍人が、表向きの顔であるカー用品店勤務の知識と経験でさっさとその捕捉されている情報を妨害システムを作動させて解除する事に成功した。
そしてその86も捕捉されているのならばすぐに取り除いてやる、との意気込みでそう聞いてみたのだが、如月がさくらの86のディスプレイを探ってみてもその痕跡は残っていなかった。
「さくらのは問題無いですね。となれば捕捉されているのは真理のロードスターだけですし、今の捕捉情報も消しましたからほとぼりは冷めたと思います。しかし、万全を期すならメカニックの人間に頼んで輸送用の4トントラックを出して貰いましょう」
如月がそう言うが、真理は首を横に振った。
「……大丈夫。こっちでリサーチを済ませてから港で合流する。だから3人は先に行って」
「何か不安だなー……」
躍人がまさしくその言葉通りの不安そうな表情で真理に言うものの、彼女のリサーチ能力には定評があるのでここは彼女に任せる事にする。
「それじゃちょっと狭いけどさくらの86で俺達3人は先に港に向かうから、真理は後から1人で合流な」
躍人のセリフに真理は無言で頷き、自分のロードスターに乗り込んだ。
そしてバックミラーでさくらのドライブする86が港に向かい始めるのを確認すると同時に、あのスラム街であの刑事から奪い取った端末をもう1度確認し始めた。
(位置情報は解除したし、私達のデータも色々とハッキングさせて貰って消したし……でも、この端末があればまだ色々とこの街の警察の情報が手に入る筈だからね。まずはこの端末の持ち主の情報から色々とリサーチさせて貰うとしましょうか……)
その無表情からはやはり何の感情も読み取る事は出来ないものの、実際はこうして警察の端末を手に入れる事が出来たと言うだけでもこちらが有利になるので真理は心の中でほくそ笑んでいた。
この街で目星をつけた車は後まだ数台ある。
その目星をつけた車達の中には、今の2030年ではもう手に入れる事が出来ない絶版車も存在している。
このヴェハールシティに「それ」があると知り、だからこそわざわざその絶版車を手に入れる為にはるばるこうして海を越えてやって来た訳なのだ。
それを手に入れられれば、その他に目星をつけている数台は諦めても良いレベル位の代物でもある。
何故かは分からないが、このロードスターに一緒に乗って仕事をしていた自分とさくらが尾行された事でこんな事になってるのだから……と真理は気を引き締めながらほとぼりがもう少し冷めるまで端末をチェックし続けるのだった。




