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そんなすったもんだの状況がビルのロビーで行われているとは露知らず、女スナイパーのエディトは今はスナイパーライフルを持ち歩かずにエレベーターへと乗り込み、パーティ会場のある4階へと上って行った。
(ここにそのドイツの女が来るって話だったわね。しっかりとそのお顔を見せて貰わないと、わざわざこんな派手な格好をしてまでここまで来た苦労が報われないわ)
勿論彼女も招待状は持っていないのだが、彼女はパーティーへの出席をするとは一言もオーソンにもリーダーにも言って無い。4階にはパーティ会場となる広間以外にも、また別のテナントが幾つも入っておりそこに向かうと言っておけば係員に止められる事は100パーセントありえない。
ティアナはここで大きなミスをしてしまった。パーティー会場の方へと向かって行ったそのエディトの後を追いかけて、彼女がパーティー会場へと入るものだと勘違いをしてしまったのだ。
人間であるが故にミスは誰にだってある。しかし、ここ一番で絶対にやってはいけないミスをしてしまい、結局4階のパーティ会場があるフロアへと行く事を諦めてしまった。
(まずいわね、あれだけニコラスに念を押されていたのに……!!)
パーティー会場は4階にあるのでどうにかして行きたい所だが、ビルの受付であれだけすったもんだの状況を作り出してしまった為にもう1度入るのは不可能だろう。
この事が冷静沈着な彼女らしく無い焦りを更に大きくして行く。
(どうすれば良いかしら……どうすれば!?)
何とか4階へと辿り着く方法を頭の中で考えていたのだが、結局その答えが出る前にニコラスがマスタングを目立たない場所に止めてビルへとやって来てしまった。トレードマークであるロングコートはそのままだが、その下に着込んでいる警察の制服はジャケットだけをマスタングの中において来た。勿論手錠やインカムやハンドガンや警察手帳、バッジ等はコートの下に仕舞い込んである。
「おい、どうなった!?」
「そ、それが……」
ティアナが今までの顛末を話すと、ニコラスは額に片手を当てて溜め息を吐いた。
「ちっ、何て事だ……。それじゃあ俺が行く。ここで待っていろ」
「え、ええ……」
ニコラスは受付まで歩いて行くと、そのまま二言三言会話を交わしてから早足でティアナの元に戻って来て衝撃的な事を口にした。
「4階のパーティー会場に入る許可が取れた。行こう」
「えっ!?」
まさかあんなに短い時間で許可が取れたと言うのか。一体どうやって?
そんな疑問がティアナの頭の中をグルグルと駆け巡るが、それはニコラスと一緒にエレベーターに乗り込んで2人きりになった時にニコラス本人が話してくれた。
「少々荒っぽいが、そのパーティー会場に爆弾が仕掛けられたと言う連絡があったと言う話を持ち出した。勿論嘘だがな。そしてその調査をする為に俺達2人がここに呼ばれたと言ったんだ」
そのまま4階に辿り着き、パーティー会場が見える所でティアナに手短に説明する。
「だけど、こんなビルの中でそう言った話を大っぴらにしてしまえばパニックになりかねない。だから俺達がこれから調査をするから、この事は各警備員達に伝えるだけにしておいてくれとこう言ったんだ」
だけどこの嘘がばれてしまえば始末書どころの騒ぎでは無くなってしまう。
「で、でもそんな事をしたら……」
「だからだ。これから素早くパーティー会場を見回ってそのままルイーゼに接触する。そして彼女の無事が確認できたら、そのままそこを出てただのいたずらだった、と説明するんだよ。余り時間をかけられない。結構大規模なパーティーらしいから会場も広いって話だ」
「なら二手に分かれてルイーゼを探すのね」
「そう言う事だ、行くぞ」
こうして壮大な嘘をついた上での、2人の警察官によるルイーゼ保護作戦が始まった。




