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そもそも潜入とは一体どう言う事なのだろうか? とニコラスが電話の向こうのティアナに聞いてみると、彼女から返って来た答えはとんでもない物だった。
『実は……、見つけたの、あの時の女を』
「女?」
『ほら、私があの港で戦ったって言うスナイパー! あの女を見つけて尾行した先が、そのパーティ会場なのよ』
そのティアナのセリフにニコラスは何処か引っかかる物を覚えた。
「そいつがか? だったら俺も今から向かおうと思うが……」
『分かったわ。だけどパトカーで来るならなるべく目立たない所に止めた方が良いわね。あと変装もしておいた方が良いわ。何時何処で見られているか分からないわよ』
「そうだな、そうさせて貰う。それで場所は何処なんだ?」
だがその場所を聞いた途端、ニコラスの顔がこわばった。
『場所は12番アベニューの大きなビルね。そこに行けばパーティ会場はすぐ分かる筈よ』
「何だって!?」
『え、だから12番アベニューの……もしもし?』
ニコラスはドーナツを急いで腹の中に押し込み、慌ててマスタングに乗り込んで12番アベニューへと向かって走り出す。
そんな様子は、今も繋がったままの電話の向こうに居るティアナにも音だけが聞こえていた。
『ねぇ、一体どうしたのよ? 凄く慌てているみたいだけど?』
「良いか良く聞いてくれ、ティアナ。そのパーティーには俺があの取り調べの時に話した彼女が居る可能性が非常に高い」
『えっ? それってどう言う事!?』
片手でハンドルを握りながらの運転は非常に危ない事この上無いし、サイレンを鳴らしていない以上はこのマスタングパトカーも一般車と同じ扱いなので信号等で止まらなければいけないイライラがニコラスを更に焦らせる。
「俺の彼女は今日、そのビルで行われるパーティーに出る予定なんだ。そもそももう会場の中に居る可能性が高い」
それなりに焦りを含んだ口調で事情を説明するニコラスだったが、ティアナはそんな彼を落ち着かせる為にこう答えた。
『ちょ、ちょっと待って。何も貴方の彼女が狙われるとかそう言う事じゃ無いでしょ? たまたま偶然同じパーティーに招かれたって言う可能性も無きにしもあらずだし、大体その彼女はあの組織の人間に狙われる様な事もしていない筈よ?』
確かに良く良く考えてみればその通りなのは分かるが、自分の敵となっている組織のメンバーと自分が婚約予定の彼女が一緒の空間に居る事になる可能性を考えるとやはりいてもたっても居られなくなってしまうのは仕方が無い事だとティアナに熱弁するニコラス。
『……分かったわ。もし私があなたの立場だったらきっと同じ気持ちになっていても不思議じゃないかもしれないわね。最大限の事はしてみる』
「最大限じゃ駄目だ。絶対にそのスナイパーを見失うな!!」
そう言って電話を切ったニコラスは、目の前の信号が青に変わったのでマスタングのアクセルを踏み込んでビルへと再び走り出して行くのであった。
しかし運命とは残酷な物の様で、ニコラスが感じている悪いその予感はどうやら的中しそうになってしまいそうだった。そのパーティ会場にはやはりニコラスの彼女であるルイーゼが居る。そして港でティアナに追い払われたあの女スナイパーのエディトがパーティ会場のすぐ近くまで接近していた。
しかも更に運の悪い事に、そのパーティーは招待状が無いと入れないので幾ら警察官であるティアナでも招待状が無い部外者を入れる事は出来ない、と係員に入り口で足止めを食らってしまっていた。この状況ではニコラスの彼女の安全を確認する以前の問題で、早々にスナイパーも見失ってしまいそうになりかねないティアナは思わず舌打ちを漏らすしか無かった。
(このままじゃあまずいわね。ニコラスに合わせる顔が無いわ……!!)




