15
「あれはフリーランニングよ。こっちだとパルクールって言う名前の方が浸透しているかしら」
「ああ、フリーランニングか。フランス人でそれを習得しているのなら納得だ。あれはフランス生まれのスポーツだろ?」
「そうね。中学生の時に友達に誘われてやり出したのが切っ掛け。学校の校舎の到る所を使って色々アクロバティックな事を試したわ。勿論骨折もした事があるし、打撲や擦り傷、突き指等は日常茶飯事。学校の階段の手すりが友達って言っても過言では無かった位よ。フリーランニングの大会に出た事もあるから」
「それ程までの腕前か……」
まさかの彼女の特技にニコラスは戸惑う。
確かにフリーランニングと言う競技はフランスで生み出された物であり、エクストリームスポーツの1つだ。
どんな地形でも自由に動ける肉体と、その過程で生まれる様々な困難を乗り越えられる強い精神の獲得を目指すと言う事を目的にして、走ったり跳んだり登ったりと言った色々な移動の動作で自分の身体のありとあらゆる部分を鍛える。
大まかに分けると「パルクール」と「フリーランニング」と言う2つに分かれるのだが、この2つは基本的には同じテクニックを持っているスポーツとして位置づけられている。しかしパルクールとフリーランニングで大きく違う所は、パルクールは移動がメインなのに対してフリーランニングはアクロバティックな動きをメインにしているパフォーマンスの度合いが強い。
なので、パルクールは移動手段として見られる事が多い為スポーツと言う枠組みに入らない事も多いが、フリーランニングはそうしたアクロバティックな動きを取り入れているジャンルに入る為にエクストリームスポーツとして扱われている。
ティアナは自国フランスで生まれたそのフリーランニングを中学生の時からやっている為にアクロバティックな動きは勿論、アクロバティックな動きを除けばパルクールの練習にもなるのでニコラスから逃げる時にあの様にしてホテルの屋上からの大ジャンプを披露する事が出来たと言う事であった。
「全く無茶するものだ。あそこで何をするかと思えば、まさかあれだけのジャンプを見せられる事になるとはな。でも今の説明を聞いて凄く納得だ。フリーランニングを習得しているのなら、あれ位の距離だったら届いてもおかしくは無いな」
「そうね。結構距離は無かった方だし」
だが、ここでティアナが思いもよらない事を口にした。
「そう言えば、ニコラスさんは何か逮捕術とか以外に体術の特訓をしていたり、スポーツの経験があったりするの?」
「え、俺?」
まさか自分にも同じ様な質問を振られるとは思っていなかったニコラスは一瞬言葉に詰まってぽかんとしたが、すぐに気を取り直してその質問に答える。
「俺は昔、10歳の時から水泳をしていた。身体を動かすのは嫌いじゃなかったからな。それが基礎になってトライアスロンに出た事も何回か……確か3回位ある。今でも非番の日にはたまに公営プールに泳ぎに行く事もあるよ。ちょっとプールの場所が遠いからトライアスロン時代を思い出して片道は自転車だ。自分の寮まで自転車の場合とプールまで自転車で行く場合と2つのパターンがある」
「へええ、トライアスロンか。だったら体力は男と女って言うその違いを除いても、私よりもはるかに上の様な気がするわね」
そのティアナの率直な感想にニコラスは苦笑いを漏らした。
「もう30代に入ったからそれは分からないがな。それと水泳やっていた仲間の紹介もあって、12歳から空手を始めた。やっぱり身体を動かすのは嫌いじゃなかったし、その延長線上の練習で君と同じくアクロバティックな動きも多少は出来なくも無いがな」
そう言いつつ、ニコラスはキザっぽく片目でチラリとティアナにウインクをして見せるのであった。




