30.自由への逃走
この首都高の荒れた路面ではF40を走らせるのはやっぱりきついらしく、時折りボディの下で地面を擦って火花が飛んでいる。
与えるダメージも決して小さくないだろうその走りでスピードがどんどん落ちて来て、カーブでは更に減速を強いられるので一般車並みの八十キロ位のスピードで曲がらざるを得ない。
俺はそのチャンスを逃さずにF40のテールギリギリまで食らいつくべく、ほぼアクセル全開で死ぬ覚悟もしながら一気に差を縮める!
(来たぞ来たぞぉ!!)
小さく回り込む左カーブで更にスピードを落とすF40の外側から仕掛けた俺をブロックしようと思ったのか、ルーガウスはカーブのイン側を開ける。
そこに俺がラインを変えてスパッと飛び込み、外側でもたつくルーガウスをパスして先頭へ出る!
「うっしゃああ!!」
その後はルーガウスも体勢を立て直してもう一度追いすがって来たが、銀座区間での長い直線に入る前の上り坂からの大きく回り込む左カーブで引き離し、下り坂になる直線区間で凌ぎ切る。
名物の橋桁二連続区間では一気に道幅が狭くなるので、ここではコンパクトな俺のヴィッツが有利。
ボディを壁に擦らないかヒヤヒヤしながら走るルーガウスのF40に対し、ギリギリまで道幅を使って二車線になった区間を駆け抜け、最後のトンネルから汐留S字カーブに入る頃には三十メートルの差がついていた。
俺もまさかF40相手に勝てるとは思っていなかったが、この首都高特有の荒れた路面とルーガウスの遅いコーナリングスピードに助けられた形で勝利を手にする事が出来たのだ。
◇
と言う訳で、今の俺はルーガウスとその愉快な仲間達と共に首都高から遠く離れた神奈川県の椿ラインまでやって来た。
「ざっけんな……、ざっけんなよおおおおおおお!!」
「自由にしてやるとまでは言っていないぞ? 考えてやるとは言ったがな?」
ニヤニヤ笑いのルーガウスがいけしゃあしゃあと俺に向かってそう言うのを見て、俺は自分の迂闊さを後悔していた。
まさか俺がこんな子供騙しみたいな手に引っ掛かるなんて。
あのバトルに勝った俺は車から降りてルーガウスの元に向かったが、その瞬間後頭部をフレイザーに思いっ切り殴られて気絶したらしい。
これはフレイザー本人が自慢気に話していた。
そして俺を極秘裏に始末するべく、首都高を離れて東京都からも離れた一行は神奈川県の箱根の一角の椿ラインまでやって来て、その頂上にあるスカイラウンジの近くで事故に見せ掛けて殺害するらしい。
後始末の為、わざわざフレイザーとリーキーが率いるバイパー・チームまでご丁寧に一緒である。
「山の上から滑落死したって事にしておけば良いだろう?」
そう言うエイアルを始め、アリオス、ゼイオス、そしてリーキーの四人掛かりでまるで神輿の様に担ぎ上げられた俺は、まだ真夜中のこの場所で投げ落とされそうになっていた。
「くっそ……何でだよおおおおおっ!!」
だが、悔しさで絶叫するそんな俺の耳に違う叫び声と銃声が聞こえて来たのはその時だった。
「うわっっ!?」
「ぎゃっ!?」
ズタタタタターッと、まるでミシンの様な音と共にルーガウスの仲間達が次々に倒れて行く。
(な、何だ!?)
何が起こったのか分からない俺を乱暴に地面に投げ捨てた四人は、それぞれ自分の車に乗って謎の音の方へ動き出す。
一方、事態を把握出来ない俺にも動きがあった。
「カイザム、無事か!!」
「えっ……エルトル!?」
何と、あの筑波サーキット以来その姿を見ていなかったエルトルが俺の目の前に現れたのだ。
「ど、どうして?」
「どうやら無事みたいだな……間に合って良かった。だがのんびり話をしている暇は無い。ここからすぐに逃げるぞ!!」
「あ、ああ!」
色々と事情を聴きたいのは山々だが、エルトルの言う通りここはさっさと逃げるのが賢明だろう。
俺はすぐに立ち上がり、エルトルに誘導されるがままに何故かここにある筈の無い自分のヴィッツに乗り込んで椿ラインを下り始めた。
しかし、当然あの九人は俺とエルトルを捕まえようと追い掛けて来る。
警官隊への応戦はバイパー・チームだけで十分だと踏んだのか、フレイザーとリーキーまでもが俺の追撃に加わってだ。
椿ラインは箱根の峠道の中ではかなり長いコースの部類に入るので、麓までにあいつ等を振り切れるかが勝負だ。
「私があいつ等の相手をする。君はとにかく運転に集中するんだ!!」
そう言いながら懐からかなり大型のハンドガン――あれは恐らくコルトガバメントM1911――を取り出しつつ、ヴィッツの助手席から後ろに向かって発砲し始める。
それに呼応してアリオスやフレイザー、リーキーが俺のヴィッツに向けてそれぞれ発砲し始めたので、俺は必死に後ろの連中から逃げ回る。
その中で一気に追いついて来たのがエイアルのS55だ。
武器は持っていないらしいのだが、直線区間で有り余るパワーを発揮してその大きなボディを俺にぶつけて来ようとする。
「くっそ!」
横からぶつけられる前にブレーキで後ろに回り込むが、前に出たエイアルはそんな俺のヴィッツを気にしない様な素振りでドンドン先行して行く。
「何だあいつ……諦めたのか?」
ドンドン離れて行くS55にキョトンとする俺だが、横のエルトルの顔色がその瞬間変わった。




