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29.ラストバトル

 そんな状況から場所は変わり、俺達はかつて俺とエイアルがバトルした首都高の下までやって来ていた。

 ただし今回のルートは芝公園のランプからスタートして環状線内回りを走り、そこから今度はお台場の方に向かう新環状線左回り。

 観光名所としても映画の舞台としても有名なレインボーブリッジを渡って湾岸線を上り、再び新環状線に合流して環状線方面に走り、環状線と新環状線が交差している江戸橋から汐留S字カーブへのほぼまっすぐの区間を抜けて、最後に汐留S字を抜けた所でゴールのなかなか長丁場のルートだ。

 相手は赤いフェラーリF40。

 車の事は良く知らない俺にとってもスーパーカーなのが一目で分かるその低いフォルムと、まるでF1の様に空を突き抜ける様な甲高いエンジン音が特徴的だ。

 問題はこのサーキットとなった首都高でそれを何処まで振り回せるのかと言う所だが、この車を普段から運転していると言うだけあって侮れないだろう。


「カウント行きますよ。良いですか、ルーガウス様!!」

 先程俺に負けたピエールがスターターを務め、首都高への入り口の坂に向かって並んだ俺のヴィッツとF40の間に立つ。

 フロントウィンドウ越しにピエールに指を差された俺とルーガウスはそれぞれ頷き、それを見てピエールがカウントを始めた。

「三、二、一、ゴー!!」

 三から始まったカウントダウンが終わり、ピエールの手が振り下ろされてバトルスタート。

 ボディの軽さを活かしてスタートで飛び出した俺のヴィッツ。


 対するルーガウスのF40は失敗したのか、それとも余裕ぶっこいてるだけなのかは分からないがホイールスピンさせながら豪快にスタートし、俺のヴィッツの後ろについて入り口の坂を駆け上がって来た。

(後ろから煽って俺にプレッシャーを掛けるつもりか?)

 このヴィッツのパワーなんてせいぜい二百馬力が良い所で、F40はノーマルでも確か五百馬力位はあった筈なので、その差は実に三百馬力。

 しかも今回はテクニカルな環状線では無く、スピードの乗る新環状線でのバトルなので何とかして前を走り続けるしか無い。


 俺とルーガウスは本線に合流し、まずは環状線から新環状線に向かうべく環状線内回りのテクニカル区間を駆け抜ける。

 俺はエイアルとのバトルの時の感覚を思い出しつつ、バックミラーでルーガウスの走りを確認しているのだが、意外な事に何か仕掛けて来る気配は無い。

(いかにも、ちょっとスピード出してる位の安全運転してます……って感じだな。俺、相当舐められてんじゃねえのか?)

 そりゃあこれだけの車の性能差があれば舐めたくなる気持ちも分からないでは無いが、舐められるのは尻の穴や乳首や大事なあれ位で十分である。

 そのイライラした感情を胸に抱えながら、それでも徐々にカーブごとに俺はルーガウスのF40を引き離して行く。


 新環状線に続く右カーブを抜けて下り坂から直線へ。

 ここで少し差を詰められたが、新環状線と湾岸線の分岐を左に抜けてレインボーブリッジに入る頃までにはまた少しずつルーガウスとの差が広がって行く。

(やっぱり「暴れ馬」って異名があるだけに、こうした首都高みたいな荒れた路面では扱い難いのかも知れねえな)

 前に雑誌か何かで見かけたF40の説明によれば、有名レーシングドライバーが「雨の日には絶対にガレージから出すな」と釘を刺した位に扱い難く、予測不能なパワーの出方をする事もあって多くのレーシングドライバーが悩まされたらしい。

 それに一時期は価格が二億円を超えた事もあるらしく、幾ら金持ちでもぶつける訳にはいかないのだろう。


 カーブでは必要以上に減速し、その分直線でアクセルを目一杯踏み込んで俺との差を詰めて来るルーガウスの戦法が間違っていなかった事は、お台場の区間からレインボーブリッジを抜けて湾岸線上り方面に向かってから実証される。

(やっぱりここで来るのかよ!!)

 湾岸線の広くて長い直線区間で、俺はパワーに勝るF40にブロックを掻い潜られてあっさり追い抜かれた。

 腹立つ位の高音を響かせて風の様に加速して行く真っ赤な暴れ馬を左斜め前に見ながら、俺はそれでもアクセルを踏み続ける。

 勝負ってのは最後まで何が起こるか分からないからな。


 その長い直線区間が終わり、上りながら大きく回り込む左カーブを抜けて再び新環状線へ。

 ここからは直線区間も多いものの、連続カーブもやって来る区間なのでルーガウスとの差を少しでも縮めるチャンスだ。

 ルーガウスのF40はまだ視界に見える距離に居るが、それでもかなり離されているので俺は少々焦り気味だ。

(やべーな、これ追いつけるのかよ!?)

 まさかこんな走り屋みたいな事をするとは思ってもみなかった俺だが、今はそんな事を考えている余裕は無い。

 塩浜から箱崎へと向かうこの左回りの区間は徐々にカーブが増えて来るので、俺はコンパクトなボディを活かしてちょっとのブレーキとアクセルコントロールで駆け抜ける。

 すると、先行するF40のテールランプが徐々に大きくなって来た。

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