28.やるかやられるか(色々な意味で)のバトル
「カウントダウンは俺がやる」
二台横並びの前に出て来たアリオスが、両手を上に上げてパーの状態にしてからカウントダウンを始めた。
「カウント行くぜー。五、四、三、二、一、ゴー!!」
グーになった状態のアリオスの両手が振り下ろされ、俺のヴィッツとピエールの360モデナが同時にスタート。
最初はミッドシップでトラクションの良いモデナが先行して行く。
(やっぱりパワーと駆動方式の違いはどうにもならねえな!!)
石の壁がそびえ立つ緩いS字カーブ部分を抜けて、アクセル全開でモデナを追い掛ける俺だが、そのモデナのテールを見ていると何だかフラついている気がする。
(ドライビングテクニックは大事だとか何とか抜かしてたけど、あの動きじゃ……大した事は無いのかも知れねえな?)
しかし直線に入ると圧倒的なパワーの差で引き離されるので、ここは我慢の展開である。
そして視界が開けて、今度は大きく右に回り込むカーブが見えて来た。
それを見た瞬間、俺の脳裏に筑波サーキットの最初のカーブと先導するエルトルのE320ワゴンのテールランプの姿がよぎった。
(ここはあの時の要領で……!)
周りの景色は違えどやる事は変わらないので、俺は正確にブレーキを掛けてシフトダウンし、なるべくカーブを小さく回ってクリア。
対するモデナのピエールは大回りのラインになってしまい、ここで俺とピエールとの差が少し開いた……が。
(げげっ、そう言えばここから先は直線じゃねえかよ!!)
俺の突っ込みのスピードについて来られないのかと思いきや、ピエールは今までのカーブでの勝負を最初から捨てて、この長い直線に全てを掛けていたらしい。
しかもピエールが大回りをした事で、確かに俺との差は開いたが、その反面俺よりも直線の手前から加速する事が出来るのでスピードがグングン伸びる。
(来た来た来た来たああああっ!!)
さっきのカーブだけでなく、この直線まで筑波サーキットでのエルトルとのデジャヴじゃないかと思いつつも、俺はヴィッツの右側を甲高い音で駆け抜けて行くモデナを歯ぎしりをしながら見るしか無かった。
その先に待ち受けるのは大きく右に回り込む二つのカーブ。
途中で息継ぎをするかの様にカーブが終わり、すぐにまた始まるいわゆる「複合コーナー」と言うものだ。
俺はここに賭ける。今の直線で抜かれてしまった以上、この右カーブを抜けて直線の先まで行ったらそれでゴールだからだ。
さっき一度だけテスト走行をさせて貰った時、俺はヴィッツのこの小さなボディならもしかしたら……とある仮定を立てていたからだ。
(踏ん張れよ……俺のヴィッツ!!)
フロントウィンドウの中では先を行くモデナのブレーキランプが光るのが見える。
それに対して俺は目一杯コースの左に寄り、モデナのテールギリギリまで張り付く様にブレーキング。
そして二台同時にカーブに入るのだが、俺はここから先のラインを変える。
(モデナがアウトに膨らむ!!)
俺が物凄い突っ込みをした事で焦ったのか、早めにインについたピエールが二つ目のややきつめの右カーブに対応出来ずにアンダーステアを出してしまった。
俺は一つ目の緩いカーブを大きく回り、そこから少しだけブレーキを掛けて減速し、二つ目のきついカーブのインに向けてアクセルを踏んで行けるライン取りをする。
アンダーステア状態で加速出来ないモデナはそのままカーブのアウト側でアクセルを踏めない状態が続き、その右側を俺のヴィッツがアクセル全開で走り抜けてモデナを追い抜いた。
「いよっしゃああああっ!!」
歓喜の雄叫びを上げながら、俺のヴィッツが先に指定されたゴールラインを駆け抜けて、このバトルを制したのであった。
先にゴールラインを突っ切った俺のヴィッツを見て、ゴール地点で待っていた全員がどよめきの声を上げる。
「お……おいどうなってんだよこりゃあ?」
「想定外の展開だな……」
まさかピエールが負けるとは思っていなかったらしく、アリオスとザルスを始めとして困惑の色が隠せない一同だが、最も困惑を隠せないのはどうやら俺と今バトルしたこの男である。
「嘘だ……何かの間違いだ!!」
右手で額を抑えつつ首を左右に振りながらモデナの運転席から降りて来たピエールと、それを見ながらヴィッツから降りる俺を交互に見つめて、ルーガウスは何かを決意した様子で一つ頷いた。
「……ふむ、こうなるとは思っていなかったが……ちょっと気が変わった。俺ともバトルしろ」
「はあ?」
それじゃ約束が違うじゃないかと抗議しようとした俺だったが、ルーガウスは当たり前の様にヌケヌケとこう言い放った。
「バトルが一回で終わりだって誰が言ったんだ?」
「なっ、それじゃ言ったもん勝ちじゃねえかよ!?」
「若干意味が違う気がするが、今度こそ約束は守ろう。これから場所を変えて、俺のF40ともバトルして貰う。それで御前が俺に勝てたら考えてやろう。ちなみに拒否権は無いからな」
「……」
どうにかしてこの状況から抜け出したい俺だったが、九対一では逃げ場が無いのは明白である。
試しにちょっと後ずさりしてみたのだが、その瞬間俺の後ろに居たアリオスがデザートイーグルを俺の背中に突きつけつつ黙って首を横に振った。




