27.俺が狙われていた理由(ワケ)
「このゼイオスとサザートがうっかり御前に対して口を滑らせたって聞いた時は焦ったぞ。碓氷峠でアリオスに襲撃された御前は「AE111」とだけしかゼイオスとサザートに話をしていなかった。なのに……こいつ等のどちらが言ったのかは忘れたが「レビン」と口走ったそうだな?」
「あ……!」
そのルーガウスの言葉に、俺はその時の光景がフラッシュバックして来た。
『トラブル……まあ、さっきの話からするとそうだろうな。相手はレビンに乗っている正体不明の男と、今の世間を賑わせている実業家の男だって言うからな。前者はまだしも後者はそれなりに社会的な地位もありそうだしな』
AE111にはレビンとトレノの二種類があるが、パッと見ではなかなか区別がつき難い。
しかし、あの時ゼイオスはハッキリ「レビン」と言ったのだ。
「そうだ……俺、最初にヴィッツの傷を直しに行った時、ゼイオスと話をしたっけ。確かにその時、俺はレビンかトレノか分からなかったからAE111としか伝えてなかった筈なのに、あんたはレビンってハッキリ言い切ったな。じゃあ、既にその時からこの連中と繋がりがあったって事なのか!?」
「ああ、そうだよ。そしてそのリアバンパーの修理をした時とカーナビにバトルのルートを入力した時にコッソリ発信機を付けさせて貰ったんだ。だからこの傭兵達もルーガウス様達も君の居場所が分かったって訳なのさ」
悪びれる様子は一切見せずにそう言ったゼイオスを見て、俺の心が更なる絶望感に支配される。
「何で裏切ったんだよ……今までそんな素振りなんて無かったじゃねえかよ!?」
ずっと俺の車の面倒を見てくれただけで無く、俺にドライビングテクニックまで教えてくれたゼイオスと、頼れる真面目な部下のサザートが何故俺をハメる様な事をしたのか?
その答えもルーガウスの話と同じく実に単純だった。
「俺の店、経営がヤバくてさ。このままじゃ俺だけじゃ無くてサザートも路頭に迷ってしまうかも知れないって所で、ルーガウス様のフェラーリを修理したついでにこの話を持ち掛けられてな。俺にメリットがある話だから乗ったんだ。君のヴィッツみたいにチマチマした仕事ばっかりじゃあ、俺の店には大した金は入って来ないんだよ。こっちもボランティアじゃないからさ。しかも俺達だけじゃ無くて、このエイアルだって病院の勤務が苦しいから手を組んだんだ。君を捕まえれば多額の報酬を出すって言われれば、こんな美味しい話に乗らない訳が無いだろう?」
自分達だけで無く、エイアルが裏切った理由までも話の流れで暴露したゼイオスだが、俺にとっては結局この三人まで敵に回った事に変わりは無いのだ。
つまり、この部屋には俺の敵しか居ない。
しかし、ここでルーガウスが予想外の事を言い出した。
「でもまあ……せっかくこんな所まで来たんだ。少し俺達と遊ばないか?」
「は?」
まさか俺をいたぶって殺すつもりじゃないだろうな。いや、そうに違いない。
俺はその予想をそのまま目の前のルーガウスに伝えてみたのだが、年収十桁を超えているとされる大金持ちならではの余裕なのか、更に意外な事を言い出した。
「それも面白いかと思ったんだが……御前にチャンスをやろう」
「ちゃ、チャンスだ?」
「ああ。これから三十分でこの近くに即席のコースを作るから、そこでこのピエールと車でレースをして貰う。もし御前が勝てたら今までの話は無かった事にしようかと考えているんだが……どうだ?」
物凄い胡散臭い話だが、何故そんな話を急に持ち掛けて来たのかと言う疑問の方が強い。
俺を事故に見せかけて殺すつもりなのかも知れないが、本当に見逃してくれるなら……やってみる価値はあるだろう。
「分かった……その勝負、乗ったぜ」
やっとの事でミノムシ状態から解放されて自由になれた俺だったが、まだ本当の意味での自由は得られていない。
川崎の工場地帯の一角まで全員で移動し、そこでピエールとのレースをする事になった。
このバトルに勝てなければ、俺はただ負けるだけでは済まないからだ。
(でも、相手がまさかこんな車だとは……)
俺は左隣に並んでいるピエールの、RSDエアロを装着した黄色いフェラーリ360モデナを横目で見ながら緊張感を高める。
今までバトルして来た相手は国産のスポーツマシンかヨーロッパのコンパクトカー、それにチューニングされているベンツ位のものだったからだ。
それがここに来て、まさか俺の年収ではとても買えない様なこんなスーパースポーツマシンとバトルする事になるなんて。
後はコースがどうなっているかだが、そこは川崎にあるこの港湾区域を工事の名目で封鎖したルーガウスの事だから、少なくともピエールの360モデナに有利なコースレイアウトなのは間違い無いだろう。
実際、ルーガウスが情けを掛けたのかバトル前に一度だけコースの下見を許してくれた。
(思った通り……直線の長いコースだな!!)
コースは港湾区域を封鎖して、指定された場所からスタートして指定された場所でゴールの一本道。道幅は広くも無ければ狭くも無いので微妙な感じだ。
それでも俺はやるしか無いのである。




