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20.腕試し

「言われてみれば確かにそれはそうだが、だからと言っていきなりレースは無茶だろうと言う気持ちは消えないぜ、俺」

 しかしそこはエルトルの押し切りが再び始まる。

「まあまあ、そう言わずに。車が少ない今だからこそチャンスだよ。このサーキットは関東でもトップの人気なんだ。昼間になればもっと多くの参加者がやって来るだろう。そうなるともっと走り難くなってしまう。頼む、一回だけ私に付き合ってくれないか」

 何だか強引な奴だなーと思いつつも、まあ一回位なら……と俺はこのベコベコのヴィッツでE320ワゴンとレースする事にした。


「じゃあルールだけど、コースインしてから一周は私の後ろについて走ってくれ。そして二周目に入った所でアクセル全開だ。ローリングスタートと言う奴だな」

「分かった」

 ローリングスタートと言うのはゼイオスさんから聞いた事があるので、俺は言われた通りに次の走行時間のスタート時にコースインしてからついて行く。

 筑波サーキットはどうやら走り慣れているらしいエルトルに勝てるとは到底思えないが、ついて行けるだけついて行ってみようと決意しながら。


 エルトルが言っていた通り、確かに他の参加者は少ないのでチャンスだろうとコースを回りながら考えていると、あっと言う間にコースを一周していた。

「よっし、ここからだな!」

 俺はスタートラインを超えてアクセルを床まで踏み込み、一気にスタートダッシュを決める。

 しかし横ではパワーがあるエルトルのE320ワゴンがスッと前に出て、最初の右カーブに突入。

「くおおおおっ!」

 普段突っ込まれる方の俺は雄叫びを上げつつ、ブレーキングで一気にエルトルの横に突っ込みイン側をキープして立ち上がりで前に出る。


(なかなか元気の良い突っ込みじゃないか)

 エルトルが後ろで感心しているとは思ってもいない俺は、そのままS字カーブを抜けて左のヘアピンカーブに進入。

 ここもイン側を抑えつつ立ち上がりながらバックミラーを覗いてみると、俺の突っ込みに焦ったのかエルトルはフラつきながらヘアピンカーブを曲がっていた。

 しかし俺はそんな事に構ってはいられないので、筑波サーキット名物と言われているダンロップコーナーを抜けて高速左カーブへ。

 ここで一気にエルトルが差を詰めて来るかと思いきや、やはりワゴンの重量が災いしてか余りアクセルを踏み込めていないらしく追いついて来られない。

(だけど問題はこの後の右ヘアピンカーブからの、四百メートルの直線だ!)

 嫌と言う程に車のパワー差を見せ付けられるのがこの直線なので、俺はヘアピンカーブを今までに無い位に小さく回って、直線に入った瞬間に三速へシフトアップして床までアクセルを踏み込む。

(来た来た来たあああっ!)

 他の参加者の車をかわしながら、少しずつバックミラーの中で大きくなって来るE320ワゴンの姿に俺は焦りを感じながら四速シフトアップ。


 そして、このサーキットのカーブの中で最もスピードが速くなる最終右高速カーブに三速に落としながら進入。

 突っ込みスピードは俺の方が速いが、エルトルのE320ワゴンも踏ん張ってジリジリと追いついて来た。

「くっそおお、ここまで来て負けられねえんだよおお!!」

 外側一杯までコースを使って立ち上がり、アクセルを床が抜けんばかりの強さで踏み込みつつ、右側に迫って来たE320ワゴンのエンジン音を聞きながらゴールラインを駆け抜けた。

「や……やった……?」

 ギリギリの差ではあったものの、最終的に半車身程リードして俺がこのレースを制した結果になったのが、俺自身にもエルトルにも分かった。



 ◇



「やっぱりそれなりにテクニックがあるみたいだな」

「そうか?」

「ああ。私も長い事ドライビングテクニックを磨いて来たから分かるんだ」

 そう言うエルトルが、俺が起きる前に近くのコンビニで買ったと言っていたパンを俺に渡してくれたのでありがたく頂いておく。

「さてと、もう少し走ったら私のとっておきの場所に案内する。そこでしばらく匿う予定だから、ほとぼりが冷めたら東京に戻るんだ」

「分かった。サンキューな」

「別に構わん。これが私の仕事でもあるからな」

「へっ?」


 自分の仕事?

 この男は傭兵家業を生業としているんじゃないのか、と疑問に思う俺に対して、そんな心を読んだのかエルトルが補足説明をする。

「前にもチラッと話したかと思うが、私は依頼主から君を守る様に言われていてね。だから君が命を狙われている以上は私が君を守る責任があるんだ」

「ああ、それなら納得」

 一回の説明でなかなか話が伝わらない事は結構あるので、俺はそれ以上気にする事も無くパンの残りを胃に収める。

 そしてその後も何度か筑波サーキットを走り、午後一時過ぎに撤収する事にした俺達。

 余り長い時間ここに居たら疲れも溜まるだろうから、と言うエルトルの言葉で筑波サーキットを後にした俺達だったが、エルトルの秘密の場所へと向かう途中でそれ以上に疲れそうな出来事に遭遇した。

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