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13.エスケープその1

 こんなパニック状態の一方で、何処か俺の頭は冷静だった。

 ポケットからヴィッツのキーを取り出しつつ、思いっ切り突き刺す位の勢いでドアの鍵穴にキーを差し込んで回す。

(うっし、開いたぜ!!)

 しかしまだ終わった訳では無いので、運転席に乗り込みつつ今度はイグニッションのシリンダーにグイッと鍵を差し込む。

(焦るな……焦るな、焦るなよカイザム!!)

 内心では物凄く焦っているが、手付きだけは一挙一動を確実にこなす為に手早く、しかし確実にグッと鍵を差し込んでキーを捻った。

「よっしゃあ!!」

 エンジンが一発で始動して俺は声を上げつつ、サイドブレーキを下ろしてギアを一速に叩き込み、クラッチをドカンと荒々しく繋いで急発進。そのまま俺を追い掛けて来ていたフレイザーに向かって、アクセル全開で突っ込んだ。


「うおあっ!?」

 まるで映画のワンシーンの如く、俺のヴィッツのボンネットに乗り上げてゴロゴロと転がる形で跳ね飛ばされたフレイザーだったが、そんな奴に構っている暇なんて無いので俺は後ろを振り返る事もせずに、表六甲のダウンヒルへとヴィッツをアクセル全開で進ませる。

「くっそ、一体何がどうなってやがんだよ!!」

 まさかこの日本で久し振りに銃声を聞くだけで無く、その銃声の主に命を狙われている自分が居る事に俺はもうパニック状態だ。

 とにかくあの跳ね飛ばしたフレイザーがそのままくたばってくれている事を強く願いつつ、まずはこの場から離れるべく狭い六甲の道を駆け抜け始めた……が。


「んん……!?」

 ふとバックミラーに気配を感じて覗いてみると、そこには夕日に照らされて赤いボディが更に真っ赤に燃えたぎる様な輝きを放っている、ジュリアスプリントGTAの姿がグングン大きくなって来ているのが見えた。

 それはまるで、俺を絶対に逃がさないと言うあの男のオーラが炎となって吹き出している様にも見える。

「げえっ!?」

 立ち直るのがやけに早いなと思いつつも、俺はすぐに前を向いて後ろのGTAを振り切るべくスピードを上げる。

 このコースを走る事自体が初めてなのだが、そこはカーナビと今までの経験とテクニックでカバーするしか無い。


 二台がすれ違うのもやっとな位の細い道をアクセル全開で駆け抜け、細かいカーブを素早いハンドルさばきでクリアする。

 そこでバックミラーを見てみると、後ろの方で明らかにフラつきながらも何とか俺のヴィッツに追いすがって来ようとするGTAが。

(古い車だからサスペンションがフニャフニャなのか、それともテクニックが無いだけなのか……何にせよ、差が開くならそれはそれで俺の生存率が上がるってもんだぜ!!)

 その細かいカーブを抜けつつ、右のヘアピンカーブに突入してサイドブレーキを引いてクイックにターン。

 パワーもどうやらこっちの方が上みたいだが、俺はこの時すっかり失念していた事があった。


 ヘアピンカーブを抜けると短めの直線に入るので、俺はアクセルを床まで踏み込んで加速。

 しかしその瞬間、ビシッと言う奇妙な音が俺の右側から聞こえて来た。

「えっ……?」

 音のした方向を見ると、そこにあった筈の右のサイドミラーが粉々に砕け散っていた。

 もしかして右の岩壁にぶつけたのかと考える俺だったが、次の瞬間それは間違いだと気付かされる。

 再び後ろからビシッと音がしたかと思えば、リアガラスに小さな穴が貫通している。

「あ……あいつ撃って来てやがる!!」

 先程俺を仕留めようとしていた銃弾で、今度は俺のヴィッツを狙って来ているでは無いか。

 と言う事はこの先でタイヤを狙われても不思議では無いので、何としてでも振り切るべくまた目の前に迫って来たカーブに向けて俺はヴィッツを突っ込ませて行く。

 車のポテンシャルで言えば俺のヴィッツの方が上だからこそ、向こうもそれを察して振り切られる前に仕留めようと言う魂胆らしい。


 FF車にはきつい下りの連続カーブをきっちり丁寧にクリアしつつ、後ろからの銃撃に注意してガンガンアクセルを踏んで行く。

 途中の2連続ヘアピンカーブはサイドブレーキを引いて素早くクリアし、そろそろ麓が近くなって来ているのでもう少し引き離すべく俺は前を見て走り続ける。

 だが、フレイザーはここで車に積まれているニトロを噴射して、二連続ヘアピンカーブの後にある左ヘアピンカーブを抜けた後に一気に追いついて来た。

「死ねやああああ、ゴルアッ!!」

 あらかじめリロードしていたのか、ある程度距離を詰めたフレイザーは銃を連射して俺のヴィッツを狙う。

 そしてその内の一つが、ヴィッツのテールランプを割った。


 しかもフレイザーの蛮行はそれに留まらず、橋の後に待ち構えるのは急な右カーブなのだが、そのカーブに対する減速を俺のヴィッツにぶつける形でしやがったのだ!!

「うおわっ!?」

 むち打ち確定の衝撃を後ろに食らいつつも、それよりももっとヤバい現実が目の前に迫って来ている。

 このままだと右カーブの壁に激突して押し潰されてしまう!!

(やっべえ……!!)

 このまま死ぬよりかは一か八か、俺はハンドルを右に目一杯切りつつサイドブレーキを引いてヴィッツを一気に直角に向ける。

 そしてカーブに対して平行になった俺のヴィッツのアクセルを床まで踏み込んで、ギリギリでプレスから生き残った!!

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