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「こちらの処理は完了しました!」
「こちらももうすぐ終わります!」
「分かった、急げよ」
タワービルの戦いは終わった。
武装集団は結局数人が射殺され、残りの大部分は拘束された。
その数、実に23人。
結構な大人数の取り引きだったらしく、中身はニコラスが録画していた映像とも照らし合わせる形で確認された結果、密輸された武器や麻薬と言ったオーソドックスな物ばかりだった。
その物的証拠も勿論警官隊の手によって押収され、ギルドのマドックには帰還命令が出た。
しかしまだ帰る事は出来ない。
何故なら「ルイーゼ保護」の連絡がまだ来ていないからである。
「ルイーゼは何処に行った?」
戦いの後処理を指揮し終えて帰ろうとするマドックに、ルイーゼの夫であるニコラスがそう尋ねる。
その質問に対して、マドックも「そう言えば……」と気がついた。
「保護の連絡、そう言えば来て無いな。店って言うのはあっちの方のアベニューにあるここの飲食店だったな?」
そう言いながらマドックは、自分の手の平を上に向けてそこにホログラムを映し出す。
パワードスーツに内蔵されているバッテリーからエネルギーを取る事で、埋め込み式の端末の情報をこうして映し出す事も可能だ。
そのホログラムの情報をニコラスがチェックしてみるが、自分の送った店のデータに間違いは無い。
「そう、ここで合ってる。ところで誰を迎えに行かせたんだ?」
「74番のパトカーの奴等だけど、俺が連絡見落としてるのかな……」
ホログラムデータを空中で操作して、端末に送られて来たメッセージの履歴を調べてみるもののそんな連絡は来ていない。
「おかしいな……。ニコラスの方は連絡は来ていないのか?」
「俺は……いや、俺も来て無いな。そう言えばさっき逃げていた時に俺が見落としてた御前の部隊からのメッセージと言うのも来て無いぞ?」
「え?」
ならばやはりおかしい。
ルイーゼの保護に向かったと言うそのパトカーに何かしらのトラブルがあったのか、あるいはルイーゼ自身が何かトラブルに巻き込まれているか、もしくはまだルイーゼを保護出来ていないのか……。
いずれにせよ、ニコラスから送られているデータを基にして保護しに行かせたにしては余りにも遅過ぎる。
「とりあえず、そのパトカーに連絡してみるとしよう」
「ああ、それが確実だな」
そう考えたマドックはボディアーマーの機能で連絡を取り始めた……のだが、その時ニコラスのスマートフォンがブルブルと振動し始める。
今度はどうやら電話では無くメールの様だ。
「ん……あれ、ルイーゼからだ!?」
「えっ?」
ニコラスの驚き混じりの報告に、連絡を取ろうとしていたマドックの動きも止まった。
ニコラスがそのスマートフォンのメール着信に応答してみると、メッセージボックスには信じられないメッセージが届いていたのである。
『もうそっちに警察の人から連絡が行ってると思うけど、あたしはもうパトカーに保護して貰ってニコラスの部署がある第5分署で待ってる。ニコラスも気を付けてね』
そのメッセージを見て、ニコラスとマドックの頭の上に幾つもの「?」マークが浮かんだ。
「ん? この書き方だと既にこっちに連絡が来ているって事にならないか?」
「……そう、だな」
もしかしたらさっき確認した時に、保護をしたと言うメッセージを自分が見逃しているだけかも知れないと思いマドックがもう1度確認する。
その間にニコラスは、マドックと一緒に来た警官達にルイーゼ保護の連絡が来ていないかどうかを聞いてみる。
しかし、どちらの調査結果からしてもルイーゼ保護の連絡は来ていなかった。
「となればその保護しに行ったパトカーの連絡ミスか? 何れにせよ連絡の徹底だけはしっかりして貰わなければな」
バリバリと手で後ろ頭を掻きながら、ひとまずルイーゼと合流する為にニコラスはマドック達と一緒に自分の職場である第5分署へと向かう事にした。
幾ら刑事だからと言っても休暇は必要なのだが、ルイーゼからの情報が基でああしてタワービルに踏み込み、結果的に事件解決に繋がったのだからそれはそれで大きな手柄にはなった。
だけどもしかしたら、この後の事件の後処理や報告書の作成等でこのまま休暇無しとなるのでは無いか……と言う漠然とした不安がニコラスの頭の中を支配し始める。
(何だろう、何か嫌な予感がしやがるな)
その嫌な予感が何かは分からないが、こう言う時の嫌な予感は当たる確率が高い。
頭脳で動くタイプでは無く、昔から勘と経験だけを頼りに動くニコラスらしいと言えばニコラスらしい。
自分のチャージャーのドライバーズシートに乗り込んだニコラスは、マドックの運転するマスタングパトカーの後ろに続いて第5分署への道のりを走りながらそう考えていた。
出来ればその予感が当たって欲しくない、と言うのに越した事は無い。
せっかくの休暇だったのにな……と残念がるニコラスだったが、その残念な気持ちを一気に吹き飛ばしてしまう出来事がこの先で待ち受けていたのだった。




