5. 氷醒
テンプレ編ラストです
噂を聞いて会場に行ってみると、既に席は殆ど埋まっていた。あの友達の居ないノエルが珍しく試合をするのだから、注目度が高いのも無理は無い。
空いている席に座り、フィールドを見ると、ちょうどノエルが入場をしていた。観客から歓声が沸く。
「隣、空いてるかしら?」
見上げると織部先生が笑顔で立っていた。
「ええ、どうぞ」
今日の先生は機嫌が良さそうだ。
「貴方はどっちが勝つと思います?」
「そりゃあノエルさんだと思いますよ。なにせ相手は魔法の使えない転校生でしょ?」
「ふふふ…楽しみね…」
不自然な笑いが非常に不気味だ。
まもなく相手も入場して来た。制服ではないので、やはり転校生という噂は本当らしい。
彼が刀を構えると、会場が静まった。
観客の殆どがこの無知な転校生を哀れんでいた。剣術で負けた試しの無いノエルに剣術勝負を仕掛けるのは、余りにも無謀だ。会場全体が緊張で張り詰める中、唯一先生だけは笑顔のままだ。
「試合開始」
抑揚のないアナウンスが試合の始まりを告げた。
誰もが、ノエルが一方的な勝利を予想していた。
しかし、彼はノエルと互角に渡り合っていた。彼女の鋭い攻撃を全て正確に避け、躱し、防ぎ、あまつさえ反撃までするのだ。
観客が一進一退の攻防を息を飲んで見守る中、織部先生はやはり笑顔だった。
ー ー ー
ノエルの放った炎は見覚えのあるものだった。
管理者と同じだ。
そして、逃げる間もなく襲ってくる炎の刃、死への恐怖。まさしくあの時と同じだった。
目を瞑った。
もう終わりだ。
やはり熱さは感じなかった。
ー ー ー
少し意識が遠のいた。が、すぐに元に戻った。
目を開けると、目前では巨大な氷の壁が炎を防いでいた。
直ぐに全てを悟った。
「氷醒」の力だ。
炎が一瞬止んだところで、再び攻撃を仕掛ける。
これも氷醒の力なのか、移動速度、機動性が格段に上昇し、ノエルは防戦一方となった。彼女はじりじりと追い込まれていく。
俺が油断し、防御が手薄になった瞬間を彼女は見逃さなかった。素早く攻撃に転じ、俺の脇を鋭く狙った。
反応が遅れた。
しかし、氷醒は攻撃を防いでいた。
さらに、俺の思考を無視してノエルにカウンターを仕掛ける。
ノエルは咄嗟に防御魔法を発動した。だが、氷醒の一撃は防御をいとも簡単に突き破り、ノエルをフィールドの壁まで吹き飛ばした。
「試合終了」
再び抑揚の無いアナウンスが響き渡った。
会場が沈黙に包まれる。
俺はノエルの方へと駆け寄り、手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう…」
何かに驚いたような反応を示した後、彼女は頬を赤らめた。
「これで…さっきの件は許してくれます?」
「ま、まあ仕方がないーーー」
彼女は不自然に目を逸らし、口を尖らせた。