4. 既視
突然の出来事に、俺は呆然と立ち尽くしていた。
「ふふっ、東雲くんも運が良いのか悪いのか」
「揶揄わないで下さいよ…」
いやマジで。死ぬかもしれないのに。
「あなた剣術は得意でしょう?」
「あの弾幕見た後にそれ言われても…」
「万が一被弾してもマッドサイエンスですぐ治りますよ」
「いやそういう問題ではなくて」
「私は良い勝負になると思いますけどーー」
フルボッコにされる未来しか見えないのだが…
「あと、あのノエルって子は一体誰なんです?」
「フランスからの留学生で、まだ1年生なのに学園の5本の指に入る強者です」
「俺ってまた死ぬんですか?」
「さあ?あなた次第です」
先生は終始、真っ黒な笑顔を俺に放ち続けた。
ー ー ー
あっと言う間に試合直前となった。
第二闘技場はさっきの練習試合の場所だった。
「あと10分くらいあるので準備運動でもしておいて下さい。先生はまた職員室に行きますが、始まる頃には客席にいますので」
「はい…」
先生は駆け足で控え室を去っていった。
暫しの静寂が訪れた。
今の俺には浸るような思い出も無ければ、失うものも無い。
そう思うと緊張や恐怖も無くなった。
目を瞑って黙想をする。
かつての稽古のように、精神を統一し、自己と向き合う。
観客が集まってきたのだろうか、騒めきが大きくなってきた
時間だ。
俺は「氷醒」を手にし、控え室を出た。
ー ー ー
「よく逃げ出さずに来たわね」
ノエルは既にフィールドの中央付近に立っていた。
俺が入場し、会場がざわつく。
「逃げるのは性に合わないもので」
「口だけは達者ね」
ノエルは先程と同じ様に大剣を構えた。薄く微笑んでいる。
彼女鋭い殺気は俺の闘争本能を引き出す餌となった。
周囲を見渡した。客席は8割方埋まっているようだった。その中に先生の姿を認め、一瞥する。
再び正面を見据える。
氷醒を鞘から抜き、構える。
会場が静まり返った。
ー ー ー
「試合開始」
抑揚の無いアナウンスが試合の始まりを告げた。
同時にノエルが一気に詰め寄り、攻撃を仕掛けてきた。どうやら剣術勝負をするつもりらしい。
ノエルの左からの一撃を後ろに飛び下がって避け、続く右と上からの連撃を刀身で防ぐ。
左手を軸に刀を回転させて逆手に持ち替え、防御の薄い背後を狙う。が、そこにノエルの姿は無い。
「甘い」
声は上から聞こえた。魔力を放ち、素早く飛び上がったようだ。
上からの鋭い一撃を間一髪で躱し、その勢いで着地の瞬間の足元に刃を返す。
それを避け、一瞬体勢を崩したノエルを下から斜めに斬り上げる。ノエルは大袈裟に避けると大きく後退した。
「なかなか楽しめたわ。でもこれで終わりよ」
ノエルが不気味な笑みと共に剣を高く掲げた。周りの空気が揺らめき、剣が光を放つ。
「灼炎の聖剣よ、全てを焼き尽くせ」
思っていたよりも長くなったので次回もテンプレ編となります。