1. 変化
目が覚めた。無機質な天井が目に入ったが、照明が眩しく、直視出来ない。辺りを見回すと、怪しげな近未来的な機械が所狭しと俺の周りに並べられていて、規則的に電子音が鳴り続けていた。近くにはナースらしき女性がいた。
訳が分からない。
ここは一体何処だ?俺はおっさんに焼かれて死んだと思っていたのだが…
暫く悩んだ挙句、一人で考えていても埒があかないと思い、ナースに話しかけてみることにした。
「あ、あのー…」
「あら、お目覚めですか? では担当者をお呼びしますので、こちらをご覧になって少々お待ち下さい。」
そう言うと彼女は隣の部屋に行った。その担当者とやらに質問すれば状況把握も大いに捗るのではないだろうか。
彼女から渡されたのはボールペン程のサイズでプラスチック製の見慣れない物体だった。右端に付いていた電源ボタンらしきものを押すと、ブゥゥンという音とともに画面が現れた。SF映画とかに出てきそうなアレだ。
まもなく再生ボタンが画面に表示された。どうやらタッチパネルらしく、画面をタップすると映像の再生が始まった。
ー ー ー
『国立第三魔導高校へようこそ!ここは日本の平和を守る魔導士を育成する全国7つの高校の一つです! 第三高校は第三天空都市の南区にあり、中央闘技場の6倍もの広さを誇ります!』
軽快なBGMと共に第三高校とやらの紹介が始まった。しかし、内容はまるで頭に入ってこない。さっきから初めて見るものばかりで、状況がまるで把握出来ていない。
やっぱり訳が分からない。
つまり俺はタイムスリップでもしたのだろうか…
暫く現実逃避。目指すは無の境地。
10分程たっただろうか、やっと『担当者』が思考を放棄して解脱を試みる俺の前に息を切らしてやって来た。
「遅くなってゴメンなさい、あなたの担任になった織部結です!東雲くん、よろしくね?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
優しそうな先生だったので現実に戻って参りました。
ー ー ー
「まずはあなたが何故ここに来たのか説明しますね。質問は後でまとめて受け付けます」
「はい」
「まず、あなたは不幸にも2016年に若くして火事で死んでしまいました。ご愁傷様です」
世間ではあれを火事と呼ぶのか…
「時は過ぎ2066年の日本では魔導士になる人材が不足しています」
ほう?
「って事であなたをその魔導士をするべく、あの世から2066年のここ日本に連れ戻しました。winwinの関係ですね!」
「えっ」
「マッドサイエンスとかいうやつです。細かい事は気にしたらダメですよ?では質問を受け付けます。」
「えーっと…」
「質問する時は手を挙げて!」
面倒くせえ
「はい、東雲くん」
「えーっと、まず、ここは一体何処ですか?」
「さっき見せた映像でも言っていたと思いますが、2066年は日本の第三天空都市、三南総合病院です。旧愛知県上空ですね。」
そして先生はポケットから例の端末を取り出し、その天空都市とやらの画像を表示した。ラ○ュタがでかくなって新宿副都心が3つくらい上に乗ってる感じだ。
「何のためにこんなものを?」
「それでは歴史の授業です!2023年に勃発した第三次世界大戦で、日本の平野部ほぼ全域には核ミサイルが撃ち込まれました。陸上で住める場所がかなり減ったものの、人口も減ったので暫くは問題無かったのですが」
えっ
「人口が増えてきて土地が足りなくなったので、じゃあ空に住もう!ってなった訳です。ちなみに7つあります」
えっ
「では魔導士とは一体何ですか?」
「魔術を使って天空都市の平和を守ったりしています。実はもっとブラックな目的もあったりするんですけどね…聞きたい?」
「結構です」
「賢明です」
嫌な予感しかしない。
「そもそも魔術とは?」
「マッドサイエンスの産物です」
ですよねー
「あと、国立なんちゃら高校とは?」
「第三魔導高校の事ですか?魔導高校は魔導士を育成するため専用の高校です。魔導士は結構ハードな割に給料が良くないので最近入学者が不足していて、その分を亡くなった中学三年生で補っている訳です」
「ってことは俺以外にも過去から来た人が?」
「います。でも関係者以外知り得ない国家機密なので絶対に口外しないようにね?」
「はい…」
笑顔が怖い
「じゃあちょっと手続きをしてくるかので30分くらい病院内を見てていいですよ」
先生は足早に立ち去っていった。
ー ー ー
未だに現実が飲み込めていない。自分の五感をまともに信じられない。
ただ──
先の見える人生よりは魔導士とやらの方が楽しく充実したものかもしれない。
廊下に出た。そこそこ広く、清潔感がある。
近くに案内図があったので見てみると、図書室が隣の棟にあった。情報収集には丁度良いだろう。
ー ー ー
渡り廊下を歩いていた。窓から見える摩天楼に、唖然としていた。ふと前を向くと前方からやってくる車椅子の老人に目がとまった。
顔には無数の皺が刻まれていて、表情に覇気がない。
しかし、それは確かに見慣れた顔だった。
親父だ。
暫くは不定期更新です