プロローグ
思い描いていた理想はあまりにも脆く、儚いものだった。
今まで抱いていた将来への漠然とした不安が、はっきりとした輪郭を持って浮かび上がってきた。
全ては親父の所為だ。
俺は受験生だというのに家で勉強が出来ない状況にいる。
もっとも勉強自体さほど好きではないが、自分の将来を左右する事となれば話は別だった。
特にこれといった将来の夢を持っていなかった俺は、地域トップクラスの進学校を第一志望にしていた。卒業後、国立大に進学し、豊富な選択肢の中から仕事を選び、幸せな人生を送る。そんな未来を思い描いていた。
そして、そのためには勉強が必要だった。
親父はそれを認めなかった。
それは、目を背けていた現実だった。自分の将来を決める権利なんて、俺はハナから持っていなかったのだ。
学校からの帰り道、今日も独りだ。
あの日の事をまた思い出し、運命を恨んだ。
理不尽だ。
生まれた時点で既に決まっている。
例えそれが本人の意思と違っていたとしても。
太陽が雲に隠れて、辺りが少し暗くなる。
風が普段より冷たく感じた。
「はじめまして、東雲波斗くん」
俯いて歩いていた時だった。突然名前を呼ばれ、驚いて前を向く。そこには40代ほどに見える長身の男が立っていた。
表情は穏やかだ。なのに強い殺気と恐怖を覚えた。危険を感じ、身構える。
「誰だ?」
声を絞り出す。
「管理者とでも呼んでくれ」
刹那、『管理者』の右手が赤く輝き始めた。
瞬目する暇も無かった。
逃げる間も無く俺の体は炎に包まれた。
肌が、髪が、服が、焼け焦げていく。
化学繊維でも溶け出したのであろう、きつい匂いが嗅覚を刺激する。
不思議と熱さは感じなかった。
まもなく意識が途絶えた。
次話以降はもう少し軽い文章にする予定です