そのななじゅうさんです。
「ここですね……」
私が見上げるのは、赤のペンキで塗りたくられた、シンプルなアパートです。
ここに夜切君が……。
「……」
……今更ですが、緊張してきたので、軽く深呼吸。
しっかりと息を整えた私はアパートの階段を一段、一段、ゆっくりと上がって行きます。
階段を上り終え、突き当たりの廊下を歩くと、秋扇さんが教えてくれた『405』号室が見えました。
ドアの横にチャイムがあったので、私はそれを押すと、ピンポーンと音が廊下に鳴り響きましたが、
「……」
反応はまるでありませんでした。
留守? いいえ、そんなワケはありません。
私はドアに向こう側にいるはずの人に、声をかける事にしました。
「……夜切君、いるんでしょう? 話くらい、聞いて下さい」
しばらく静寂の後、閉じたドアの奥からいつも通りに静かで低い、そんな声が聞こえてきました。
『……綿々か』
ああ、やっと……。
たった一週間だけだったというのに、何だか懐かしいものに感じてしまいますね。
しかし、この場で感動に浸っている余裕はないです。
兎に角、夜切君と面と向かって会話をしなければいけません。
「久しぶりですね、夜切君。どうです? 扉越しなんかではなく直接、お話をしませんか?」
『……駄目だ。帰ってくれ』
次に放たれた言葉は完全な拒絶でした。
夜切君は……夏美さんが言った通りに本当に私に責任を、負い目を感じているんですね……。
「なら、ここで構いません。話を聞いて下さい」
でも、私も半端な覚悟でここまで来てるワケじゃありません。
出来るだけ強く、はっきりと、夜切君に言葉を届かせように発します。
「夜切君。もしかしたらですが、あなたはあの事故で私を傷つけたと思い悩んでいるんですか? どうなんです?」
『……ああ』
「ふざけないで下さい」
小さな声で肯定する夜切君の言葉を、殆ど被せるように切り捨てました。
激しい憤りを、覚えました。
こんなにも怒るのは多分、生まれて初めてかもしれません。




