そのななじゅうにです。
「ちょ……ちょっと待って下さい。殴るって……一体、どうしてそんな話になったんですか? 理由を聞かせて下さいっ、理由をっ」
殴って欲しいと頼まれて、はい、分かりましたと頷くワケにもいきません。
どうして秋扇さんはこんな事を私に……?
秋扇さんが深く溜息をつきました。
『……あやつ、おぬしを怪我を負わせた事に相当な責任を感じているようでの。何時までも、家でうじうじしてるのじゃよ』
やっぱり、夜切君は私が怪我をしたのは自分のせいだと思っているんですね……。
『じゃが、責任を感じている割りには、おぬしに会って謝ろうともしないし……あやつ、自分で勝手に決め付けてるのじゃよ。自分にはおぬしに会う資格等、ないとな』
「何を言ってるんですか、夜切君は……」
心の底から私は思います。
会う資格がない?
そんなの……夜切君が決める事じゃないですか。
『儂も何度か、あやつには言ってやった。じゃが、やはりあやつは動こうとしない。行動しようとしない。
それも当然じゃ。あやつはこんな出来事、初めての体験なんじゃからのぅ。
ま、それを抜きにしたとしても……どうしようもないくらいの阿呆なんじゃよ、夕は』
「……」
それは……同意ですね。
夜切君は間違いなく阿呆だと断言出来ます。
自分が悪いと、全部責任を一人で負って……それでいいと思ってしまう自己犠牲。
そんなものに意味はない事を知らない夜切君は本当に阿呆です。大馬鹿です。
『……と、いくらか言葉を並べてみたが、どうじゃろうか? 儂がどうしてあんな頼みをしたか、意味が分かったじゃろうか?』
「言っても分からないなら、体に……とかですか?」
『大正解なのじゃ! 友達を殴るとか、『青春』って、感じがするじゃろ? じゃろじゃろ?』
何故だか興奮する秋扇さんに私は困ったように、しかし、それでもはっきりと言いました。
「えっと……やりませんよ?」
『何じゃとぉっ!?』
まさか断れるとは思ってなかったのでしょうか、秋扇さんがオーバーリアクションとも取れる声をあげて、驚きました。
……何がそんなに驚く事なんでしょうか?
私も殴るのは流石に……やりませんよ。
「ですが」
『む?』
「……殴るのはなしですが、私から夜切君には色々と言ってやりますよ。
それでいいでしょう?」
『……ああ、構わないのじゃよ。あの阿呆に言いたい事を言うだけ言ってやってくれ』
「はい、分かりました」
そうして、私は通話を切ると、また夜切君の家に向かって走り出しました。




