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そのななじゅういちです。

 prrrrr……prrrrr……。


 病衣のポケットから、着信音。

 走る私は携帯を取り出すと、着信主を確認もせずに、そのまま耳に当てました。

「もしもし?」

『儂じゃ。覚えているかの?』

 聞こえてきたのは、変わった喋り方をする女の子の声。

 前に一度だけ、会ったことのある、秋扇さんでした。

「ええ、勿論です。それよりも、どうして私に電話を? ……いえ、そんな事はどうでもよいです。

 秋扇さん、夜切君の家の場所を教えて下さいっ」

「いきなりじゃのう……」

「失礼も承知の上ですっ。早く、教えて下さい。夜切君に会いたいんですっ」

 電話越しで聞こえてくる秋扇さんの声は呆れ果てているような、そんな声でした。

 当たり前です。向こうも私に何か用があって、電話をかけてきたのに、電話の相手が有無言わず、いきなり家を訪ねてきたんですから。

 呆れて、怒って、当然です。

 だというのに……。

「まぁ……別に構わないのじゃよ」

「本当ですかっ? ありがとうございますっ」

 秋扇さんは何でもないように、自宅の住所を読み上げてくれました。

 私はその読み上げられた住所に向かって、進路方向を変えると、更に走るスピードを上げました。

「その代わりと言っては何じゃが……おぬしに一つ、頼みをして良いかの?」

「すみません、今はちょっと……」

 秋扇さんには悪いですが、今は夜切君の事で手一杯なんです。

 非常に申し訳なく思う私に秋扇さんはケラケラ笑いました。

「何、問題はないのじゃよ。儂が頼みたい事というのは、夕の事じゃからな」

「夜切君の……? 一体、何をすればいいんです?」

 戸惑う私の耳が次に聞き取ったのは、とんでもない内容でした。


「あやつに会ったら、まず、思い切りブン殴れ」

「は?」


 聞き違いでしょうか?

 秋扇さんは今、何と?

 思わず、私は足を止め、その場で聞き直してしまいました。


「あの……もう一度」

「ブン殴るのじゃ。……ああ、一応言っておくが、手加減は要らんぞ」

 聞き違いではないようでした。

 私が? 夜切君を? ブン殴る?



 私は今、十五年の生涯の中で初めて、友達を殴って欲しいと人から頼まれたのでした。

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