番外編 そのなな。
伝える事が出来る、とふわは見た事ない程の真っ直ぐな目で僕に向かって言った。
だけど、ふわのその言葉に込められた思いは僕に向けられたものじゃない。そのくらいは、誰にだって分かる事だ。
僕自身は勿論、分かっていた。
分かってはいたけど……それが夜切君に向けられたものだと分かると、嫉妬せずにはいられなかったね。
ああ、素直に告白するよ。
僕は夜切君に嫉妬していた。
目覚めた後のふわの話は大体が夜切君は悪くないだとか、夜切君がどうしてるだの、夜切君が心配だの、そんな事ばかりだった。
その時から、僕は何だか自分の元からふわが離れていってしまうような気がして、不安で堪らなかった。
ふわと離れたくない。
ふわと一緒にいたい。
我儘な子供が駄々をこねるのと、同じだった。
僕はふわの身を案じてふわを止めに来たんじゃなかった。
僕は我儘な自分のためにふわを止めに来たのだった。
でも、それももう止めにする事にする。
こうしてふわがはっきりと自分の思いを口にした以上、僕が何かをするなんて事、無粋以外の何物でもないから。
「……こんな事になる事くらいは分かってたんだけどな」
本当にね。
困惑した表情を浮かべるふわに僕は「行きなよ」告げ、そのまま背を向ける。
これでいい。
僕が関われるのはここまでだ。
あと、僕に出来る事と言えば、二人を黙って見守る事くらいだ。
去る途中、僕は後ろを振り返って、笑顔で手を振るつもりだった。
こういう時だ。ふわのために笑顔の一つ、見せられなくてどうするっていうんだ。
『お兄ちゃん』としての最後の筋を通す。
そのつもりで僕は後ろを振り返るつもりだった。
だけど、振り返る事は出来なかった。
決して、ふわ達を見守る事が出来そうになかったからじゃない。
──涙交じりの笑顔なんて、見せるだけ無駄だと思ったからだ。




