そのろくじゅうきゅうです。
病院の廊下を一直線に駆けていると、私は自分が病衣のままだという事に気が付きました。
ですが、私は構う事なく走り続けました。
一刻も早く伝えなければならない事があるというのに、こんな所で止まってられないんですよ。
二階から一階に下りる階段を息が切れるのを感じながら、一気に駆け下りると──
「……どこに行くつもりだい、ふわ?」
「お兄ちゃん……」
──そこにはいつになく険しい表情のお兄ちゃんが私の行く道を塞ぐように立っていました。
これは……一筋縄ではいかなそうですね。
「そこをどいて下さい、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんは、どこに行くつもりか聞いてるんだけどな?」
「決まってます。夜切君のところです」
言い放つ私にお兄ちゃんは一度、溜め息をついてから両手を大きく広げました。
「……だったら、尚更駄目だ。ここは、通さない」
「どうしてですかっ。お兄ちゃんはまだ夜切君のせいで私が怪我をしたと思っているんですか?」
興奮する私にお兄ちゃんは顔を歪めて言いました。
「違う……とは確かに言い切れないよ。だけどね、一番の理由はそれじゃない。いい、ふわ? 今、夜切君のところに行ったって、確実にふわは拒絶される。そうなったら、ふわが傷つくだけだ」
「そんな事、お兄ちゃんがどうして断言出来るんですかっ」
「……なら、どうして夜切君はふわに一度も会いにこないんだい?」
「それは……夜切君が馬鹿だからです。常に他人の事ばかり気にして、自分の事なんてどうだっていいって思ってる大馬鹿だからですっ」
「行ったところで……ふわに何が出来るっていうんだ!」
声を荒げるお兄ちゃんに自分の手を胸に当てながら、私もお兄ちゃんに負けないくらい声を荒げました。
「伝えられますっ。夜切君と一緒にいたいとそう思う人がここにいると、少なくても伝える事が出来ますっ!」




