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……そのろくじゅうよんだ。

 病院の帰り道。


 偶然、あの時助けた少年とその母親と思われる親子とばったり出くわした。

 どうやら、まず綿々の方に会いにいくらしかったのだが、その途中に俺がいた……との事らしい。

 母親の方はまず、俺に気づくと深々と頭を下げてきた。

「どうも、この度は本当に……何と感謝を申し上げれば……」

 やめてくれ。

 俺はそう思ったが、口に出す事はなかった。

 母親に続くように隣にいた少年もぺこりと頭を下げた。

「どうもありがとうございました。やさしいおにいちゃん、ほんとうに……ありがとう」

 少年の『優しい』と言う言葉が心に突き刺さる。

 優しい?

 違うっ。俺は優しくなんてない。

 人を……綿々を傷つけた。

 蔑まれこそ、礼を言われる行為をしてない。

 ついに俺は耐え切れずに首を横に振ってしまった。

「……違う。俺は、何一つ人に礼を言われるような事をしていない」

「え……?」

 母親の方がポカンとして、俺を顔を見つめた。

 当たり前だ。

 向こうからすれば俺は妙な事を口走っているに過ぎないのだから。

「いや……何でもない。それより俺の事なんかより、早く綿々の方に会いにいってくれ」

 言い終えると、俺は踵を返す。

 が、すぐに背中のシャツを掴まれ、引き止められた。

 首だけを動かし、シャツを掴んだ主を見る。

 母親、ではなかった。

 シャツを掴んだのは少年の方だった。

 少年は俺のシャツを掴んだまま、何かを言いたげにじっと俺を見上げていた。

「どうした?」

「やさしいおにいちゃん」

 少年は年相応の無邪気な顔で俺に尋ねた。



「……どうして、そんなにくるしそうしているの?」

「……!?」

「どこか……けがをしちゃったの?」

 どうやら少年は俺の身を案じてくれてるようで、キョロキョロと俺の体に怪我がないか見てくる。

 俺はそんな少年の頭に手を乗せた。

「……大丈夫だ。怪我はしてない」

「えー? でも……くるしそうだよ?」

「大丈夫だ……これから、今以上に苦しくはなくならない。綿々も……俺も」

「? よく分からないよ?」

 首を傾げる少年の頭を俺は二、三度撫でてやった。

 そうして、おそらく未来溢れる少年に向かって俺は一つ、アドバイスをした。



「いいか。──お前は絶対に俺のようになるなよ?」


 それは多分、忠告するまでもないアドバイスだった。

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