……そのろくじゅうにだ。
病室のドアをノックをすると現れたのは綿々の兄、絹だった。
絹は俺がここに来るのは予想外だったのか、目を丸くしていたが、しばらくするとその目は敵意を剥き出しにしたものに変わった。
当然だ。俺はそれだけの事をしてしまったのだから。
ましてや綿々を溺愛している絹だ。大切に思っている綿々に怪我を負わせた原因になった俺を一生許さないだろう。
「……何をしにきた?」
俺は殴られるのを覚悟で絹に向かって頭を下げた。
「本当に……すまなかった」
俺は絹に胸倉を掴まれ、背中を壁に押し付けられた。
「君のせいでふわが……! ふわが怪我を負った……!」
「……分かってる。気が済むまで殴ってもらっても構わない」
「──っ!」
胸倉を掴む両腕に力が込められる。俺の体が少し宙に浮いた。
首を締め付けられ、息苦しさを感じた。
だけど、俺はそれを受け入れていた。
今なら……死んでもよかった。
「ふわをあんな状態にさせたのは君だ! 君がふわと一緒に出かけさえしなければ、ふわはあんな目に会う事はなかったし、君がいなければ、ふわが君を庇って轢かれる事もなかった!」
「……」
事実だ。
何も反論は出来なかったし、したくもなかった。
「君がこんな軽率な真似をしなければ、こんな事は起こらなかったんだ! 君はそれを分かってるのか!?」
何も言う事はない。
俺は黙って頷いた。
「黙って頷けば、許されると思って……! お前、ふざけるな! ふざけるなよっ!!」
激しい怒りを見せながら、俺に向かって叫ぶ絹の頬には──
「ふざけるなっ……!
何も出来なかったのは……! ふわを助けられなかったのは……! 僕も同じじゃないか……!」
──涙がつたっていた。
胸倉を掴み上げる、絹の両腕の力が次第に弱まっていく。
そして、絹はその場でうなだれた。
俺はそんな絹の前で慰める事も、そうじゃないと言ってやる事も出来なかった。俺はただ、立ち尽くしていた。
俺達は……無力だった。




