じゅうななです。
私はその言葉だけは許す事はできませんでした。
「夜切君。その言葉はあなたを思ってくれてる人への侮辱なんですよ」
自分の命くらいなら? その命にどれだけ思いをかけてる人がいると思ってるんですか。
「あなたが死んだら家族は勿論、友人だって悲しむでしょうに……それをどうして自分なんてみたいな言い方を──」
「……いないんだよ」
「え?」
「……俺には、家族がいないし、友達もいないんだ」
「…………!?」
家族も、友人もいない?
どういう、意味でしょうか。
固まってしまった私に夜切君は頭を軽く下げました。
「すまない。びっくりさせようと言ったわけじゃないんだ。ただ……俺に家族も友達もいないのは本当だ。家族は俺が幼い頃に皆死んだらしいし、友達は……見ての通りだ」
笑えるか、と夜切君は自虐気味に言いました。
「だから、俺が死んだ所で悲しむ人は誰もいない。……自分から死ぬつもりはないが」
「そんなの……今からでも作ればいいじゃないですか。セクハラを止めて……頭だって、いいんですから……」
それでも夜切君は首を横に振りました。
「……お前は俺が男子から避けられてるのが気にならなかったか?」
「……はい。聞こうと、思ってました」
「そうか。……あれ、ずっとああなんだ。小学校から、中学校に、高校に入学してから今までずっと。どうしてか分かるか?」
「いえ……」
「俺には家族がいなかったからな。小学校である日、根も葉もない噂をたてられても風避けも何もなかった。色々あって、ちょうどやきぐされてた頃だったから余計にな。噂は近所まで広がった。
……それっきり、周りの奴等は俺と関わろうとしなくなった」
私は言葉に詰まってしまいました。
何て言ってあげればいいんでしょうか。
無神経だったと謝るべきなんでしょうか。
何かを言って元気づければいいんでしょうか。
第一、何て言えばいいんです?
「ワンッ!」
夜切君に体を拭かれていた仔犬が元気に吠えました。
夜切君はそれを見て、くすりと笑うと仔犬を再び抱き抱えて立ち上がりました。
「……この様子だともう大丈夫みたいだな。後は何が栄養のある物……ミルクとかか?」
話は終わったとばかりに仔犬の心配をする夜切君に私は言わずにはいられませんでした。
「…………のに」
「……綿々?」
「こんなに……夜切君は優しいのに、どうして……?」
学校生活に慣れたか心配をしてくれるような人が、考えなしに仔犬を助けに川へ飛び込むような人が、自分の事より仔犬の方を優先するような人が……どうして。
「おかしいですよ、そんな事……」
噂話だけで勝手に避けられて……きめつけれて……。
私だったら、そんなの耐えられません。
「……お前が気にやむ必要はない。それにもう、慣れた」
夜切君は踵を返すと、後ろを向いたまま右手を振りました。
「じゃあな。仔犬を介抱しなきゃならないから先に帰らせてもらう」
そのまま夜切君は私を置いて歩き出しました。
「待って……下さい」




