……そのひゃくろくだ。
「はぁ、はぁ……つ、疲れた」
壁を背に荒くなった息を整える。
近くに人の気配はない。
上手く物影に隠れることで何とか撒くことが出来たようだ。
……何故俺は遊園地にまで来て生と死をかけた逃走劇を繰り広げなければならないのだろうか。
額に張り付いた汗を持っていたハンカチで拭う。……ここらで一息入れないと次に綿々兄にあった時に体力が持たないからな。
「ふぅ──」
「見つけたアアァァッ!」
「──っ!?」
茂みから綿々兄が飛び出してきた。
一息つく暇すらない……!
一安心したところで出てくるとか、この人はホラー映画のゾンビか何かか……!
俺はすぐに背を向け、綿々兄から逃れるため再度逃走を図ろうとする、が。
「待ってくれ夜切君!」
綿々兄のその声にぴたりと足を止めた。
恐る恐る俺は背後を振り返る。
そうして、気づく。
綿々兄の瞳が真剣そのものだということに。
「話したいことがあるんだ。ちょっと時間を取らせてもらってもいいかな?」
……断る気はないが、これは断ることが出来ないのだろう。
何となくそう思った。
俺はバッグをまさぐると使い慣れた携帯を取り出した。
「……綿々をあそこに置いてきてしまった。話の前に連絡をしてもいいか?」
「ああ、いいよ。僕も楊花さんに連絡をしないといけないからね」
そう言って綿々兄も携帯を取り出し、ベンチの方を指差す。
「連絡しながら移動しよう。立ったまま会話したんじゃ疲れる」
「……さっき、ちょっととか言っていなかったか?」
「じゃあ、訂正するよ。……話が長くなるかどうかは君次第だ」
「そうか」
何の話をするだとか、どうして今なのかと聞きたいことはあった。
……ただ今は黙って綿々兄の後を追った。
その話をするのはベンチに座ってからでも遅くはない。




