……そのひゃくごだ。
言われるままにソフトクリームを買いに来てしまったが、よく考えてみると綿々からこういうのを頼まれたことは一度もなかったような気がする。
珍しいといえば珍しいが……綿々、アイスクリームそんなに好きだったか?
まぁ、何にしてもアイスクリームの一つで許してくれるというのだから、別に構やしないが。
列に並び、財布から小銭を取り出しながら、俺はそんなことをぼんやりと思っていた。
少しして、後ろに誰かが付く気配。
ふと振り向いた俺は──心臓を跳ね上がらせた。
「綿々の兄……っ!」
「あ、夜切君。奇遇だね」
まともに顔を合わすのは病院以来だ。
あんなことがあったのだから、俺としては非常に気まずいのだが、向こうはさして気にした様子を見せず、朗らかに笑いながら挨拶までしてきた。
「ここに……何をしに?」
「それはこっちの台詞だと思うけど、答えるとするよ。今日は遊園地のペアチケットを使って楊花さんと遊びに来たんだ」
「楊花?」
「化学部の部長さんさ。……アトラクションでちょっと酔っちゃったみたいで、今はベンチで休んでる」
「ペアチケット……まさか、またアイツ等の差し金か?」
萬なら十二分にやりかねないことだが……一体、何のために?
「それで、夜切君は? どうしてこんなところに?」
「それは……」
困った。
ここで綿々と遊びに来ているとでも口にすれば、たちまち目の前の綿々の兄は修羅と化し、俺を殺さんと刃物か何かを取りだすことだろう。
ならば萬に騙されて、ここに来たとでも言うか? いや、駄目だ。何故なら綿々の兄が俺を殺しにかかる理由として、『綿々と二人っきり』というそれだけの理由で事足りるのだから。
故に、綿々と二人っきりでここに来ていることは口に出来ない。出来ないのなら……知り合いと来ていることにすればいい。知り合いならば嘘ではないし、誤魔化し方からすれば自然に出来る。
……よし、そうしよう。
「実は知り合いと遊園「あ、夜切君。ソフトクリーム、買えました?」地……に……」
綿々、登場。
互いに顔を見合わせる俺達。
……言葉も出ないとはこのことだ。
俺はただ、顔を青くし、これから起こる惨劇を想像して身を震わせた。
夜切「……絶対死んだ」




